2010/09/28

U ターン (1997)

U-Turn (1997) ☆☆☆★(@WOWOW録画)

オリバー・ストーンである。新作となる『ウォール街(1987)』の続編も楽しみだ。1997年のラジー賞で最悪監督賞・最悪助演男優賞のノミネートをうけたほど不評(?)の本作『U ターン』、実は劇場公開時にいろいろ忙しくて見損なったままになっていた。あの痛恨から13年、まさかWOWOWで初見になるとは思いもよらなかった。

いやぁ、こいつは面白いなぁ。こういうどうでもいい映画をこそちゃんと褒めなきゃダメだ。

悪意のこもった犯罪映画。というか、巻き込まれ型の不条理劇。ヤクザに借金を返済するために車を走らせていた主人公が立ち寄ることを余儀なくされた田舎町で巻き込まれていく悪夢のような出来事とその顛末。田舎町で変人ばっかりでてくる、というと、なんだかリンチみたいに聞こえるが、そこはストーン親父の映画だから、変態っぽい映画ではなく、暑苦しくてむさ苦しい映画になる。そうはいっても、オリバー・ストーン監督作ではちょっと異色な部類である。メッセージ性云々というより、彼が息抜きに作った小さめの娯楽映画という位置づけらしい。

作為の塊とでもいうべき過剰で人工的な映像と細かいカット割りがブラックな笑いにつながっている。トニー・スコットがやると「おしゃれ」になるのに、ストーン親父がやると押しが強くて暑苦しい。でも、その暑苦しさが本作の不条理でブラックなテイストに合っている、と思う。

出演はショーン・ペン、ビリー・ボブ・ソーントン、ジェニファー・ロペス、ジョン・ボイト、ニック・ノルティ、ホアキン・フェニックス、クレア・デーンズ、リヴ・タイラー・・・と超豪華なんだな。みんなの悪乗り演技が面白くて仕方がない。妻の殺人を持ちかけるニック・ノルティと、悪女ジェニファー・ロペスの間でドツボにはまっていくショーン・ペンの焦燥感。ジョン・ボイト演ずる盲目インディアン(ラジー賞ノミネート)、ビリー・ボブ・ソーントンがすごい化けっぷりの田舎メカニック、ホアキン&クレアのバカップルらが次々と登場して画面を賑わす。長距離バス乗り場で顔見せ程度に登場するリヴ・タイラーの清涼感が、むさ苦しい映画の中で際立っていたりする。

2010/09/24

今月の藤子F不二雄大全集(第2期第2回配本)

昨年夏から刊行が開始された「藤子F不二雄大全集」を定期購読している。先月から第2期の刊行が始まった。今月の刊行は3冊、いつもより早めに届いたので、休みのうちに一気読みしてしまった。

『大長編ドラえもん(1)』
「のび太の恐竜」「のび太の宇宙開拓史」「のび太の大魔境」の初期傑作3本を収録。

『少年SF短編集(1)』
1975~1979の少年サンデー・同増刊に掲載された作品9本を収録:ポストの中の明日・ひとりぼっちの宇宙戦争・おれ、夕子・未来ドロボウ・流血鬼・ふたりぼっち・宇宙船製造法・山寺グラフィティ・恋人製造法。

『パジャママン/きゃぷてんボン他』
1973~1974のテレビマガジン・たのしい幼稚園・おともだち他に連載された「パジャママン」、1976のてれびくん連載「きゃぷてんボン」と1975おともだち掲載の絵物語風「とんでこい ようちえんバス」を収録。

「大長編ドラえもん」、「少年SF短編集」は、収録作品はどれも定評のある名作。大長編は単行本入手が容易だし、短編もいくどとなく編纂された短編集になんども収録されてきたものばかり。まあ、これを機会に再読、といった感じ。

だが、今回、この2冊、連載時のカラーページを再現しているのが売り物になっていて、ちょっと違った読み方もできる。これらのカラーページのなかで、単行本化に際しての描き足しが行われたコマがカラーになっていなかったりするのである。何を描き足したのか、それによって作品がどう膨らんだのかを理解できると思う。

さて、今月の目玉は、全作品単行本初収録となる「パジャママン」である。

これは、作品の存在を知らなかった。連載誌でわかるように幼年向けマンガではあるが、これがなかなか楽しい内容である。大昔に事故を起こして地中に埋没した地球外文明の意志を持った「宇宙船」と友達になった子供たちが、特殊な能力を発揮できるスーツ(パジャマ)をもらい活躍する話。表面的には「パーマン」のさらに幼年版といった風情。主人公たちも幼い子供だし、絵柄や説明は確かに幼年向けマンガ。しかしバックストーリーや設定にSFマインドを感じさせるし、それをストーリーに活かしているところが好印象。

併録の「きゃぷてんボン」は、しっかりものの少年主人公に、子供みたいな発明家の父という組み合わせが珍しい。あと、パーマンに出てくる百面相が本作にも客演している。

ちなみに、『パジャママン/きゃぷてんボン他』の帯に、「第2期全33巻」とあるべきところ、「第1期全33巻」と書かれているミスがあったヨ。

2010/09/22

SONY BDP-S370 購入

気がつくとBDのパッケージ・ソフトが増え、WOWOW録画を焼いたのも増え、居間でしかBDを見られない環境に限界を感じたので、寝室の小さな液晶TVにもBDプレイヤーをつなぐことにした。選んだのはSONYが今月出したエントリー機BDP-S370である。

まず、この機械、薄い。軽い。小さい。まあ、再生専用機だというのはあるんだけど、BDもここまで「軽薄」になったかと思うと感慨がある。いよいよコモディティ化へ第1歩という感じ。

でもって、起動が早い。かなり早い。このくらいのスピードで立ち上がるなら、ある種の「儀式」として恭しく準備してBDを見るというより、もっとカジュアルに気の向くままに見られる。そのくらい、心理的なインパクトが違う。

使ってみたかった、iPhoneアプリの 「BD Remote」も試した。これは、同じLANにつながっているiPhone がリモコンになるというもの。説明どおりに登録し使ってみた。面白い、ていうか、わりと便利。もう少しでリモコンの完全代替ができる。たとえば、電源入切までできたらもっと便利。ついでにTVの音量上げ下げも。。。そいつはちょっとハードル高いか。しばらく使っていたら、突然、iPhone がBDPを認識しなくなった。うーん、理由不明。またやり直してみよう。

海外モデルでは搭載されているはずのDNLAに未対応のようである。NASが見えないし、PS3から見えるようにしたMacのiTunes ライブラリも見えない。BDレコーダーとかも見えない。これはちょっと残念。ファームウェア・アップデートなんかで対応してもらえたら嬉しいけど、期待できないのだろうか?

画質とか、音質とか、不明。っていうか、20インチそこそこの液晶画面、TVスピーカーで使うんだし。

いや、せっかくの大画面だからBDで、とかいうんじゃなくて、「コンテンツとしてHD、メディアとしてBD」が家庭内標準になったから、大きな画面でも小さな画面でも、リビングでもベッドルームでも家中どこでもBDが使えるようにしたいというニーズを満たすのに、このくらいのサイズ、このくらいの値段(実売価格、25,000円弱)、このくらいの使い勝手のマシンってのはちょうどいいなぁ、と思う。この用途なら3Dいらんし。

満足度☆☆☆★

減点ポイントはDNLAクライアント機能の欠如と BD Remote の使い勝手。必要のない赤白黄ケーブルの添付。まあ、いい買い物だったと思う。

ブラッド・ワーク (2002)

Blood Work (2002) ☆☆☆★(@WOWOW録画)

しばらく前のクリント・イーストウッド特集時に録画してあったのを見た。『スペース・カウボーイ(2000)』後、『ミスティック・リバー(2003)』前のエアポケットというか、このころは大作や野心作の合間に、『目撃 (1997)』、『トゥルー・クライム(1999)』といった肩の力を抜いた娯楽ミステリーを撮っていた。個人的には本作をあわせて勝手に軽量娯楽トリロジーだと思っている。こういうのはもう撮らないんだろうね。ホッとするような(?)面白さなんだけど。この三本のクリントの役柄も、泥棒・ジャーナリスト・元FBIとバラエティに飛んでいてね。あ、どれ見ても一緒だなんていっちゃだめ!

本作が公開された頃は、国内興業では主演・クリント・イーストウッドの名前で観客が呼べなくなり、どんどん扱いが悪くなっていった時期だった。『トゥルー・クライム』は銀座シネパトス公開。この映画も、形ばかりは丸の内ルーブルの年末興業であったが、正月を待たずに入れ替えを前提とした2週間打ち切りという捨て駒扱いだった。

まあ、そんな不幸な扱いを受けた本作『ブラッド・ワーク』を久しぶりに見たが、やっぱりこれ、じんわりと面白い。連続殺人事件を追っていた主人公が心臓で倒れ、引退。心臓移植を受けてリハビリ生活を送っているところに、心臓の提供者の妹が現れ、姉を殺した犯人を捜すよう求められる。主人公を扱った新聞記事を読み、珍しい血液型、移植の行われた日と姉の死んだ日などの一致点から臓器の提供先が主人公であると知ったのである。事件の捜査に乗り出した主人公は、やがて偶然の強盗殺人と思われた類似事件との共通点から、それらが目的を持って用意周到に実行されたものであることに気づく。

マイクル コナリー原作(『わが心臓の痛み』)、ブライアン・ヘルゲランド脚本。イーストウッドの無駄なく安定感のある演出が、キャラクターに血肉を通わせ、単なるサスペンス・ミステリーとしてだけでなく、ドラマとしての味わい深さを与えている。隣人として主人公に運転手役などで協力するジェフ・ダニエルズが好演。主治医のアンジェリカ・ヒューストンもいい(←いつもは化け物っぽいけど、普通の役もできるのね、という意味)。

2010/09/21

キルショット(2008)

Killshot (2008) ☆☆☆ (@WOWOW録画)

ジョン・マッデンといえば、『恋におちたシェイクスピア』のアカデミー賞監督である。まあ、あれはトム・ストッパードの脚色と、ミラマックスの強烈なアカデミー賞キャンペーンが功を奏した映画だといわれたらそうなんだけど、その後、『コレリ大尉のマンドリン』とか、『プルーフ・オブ・マイ・ライフ』とか、つまらなくはないんだけどピリっとしない凡作が続いて、完成後、長い間公開されず、危うく本国でもお蔵入りの憂き目にあう寸前までいったのが本作なのである。日本ではどうやら劇場未公開というだけではなく、TSUTAYA独占レンタル・リリースという不遇ぶりであった。このたび、WOWOWで放送があったので楽しみにしていた1本である。

なにせ、未公開映画といったって筋が違う。原作はエルモア・レナード。ワインスタイン・カンパニー作品で、ローレンス・ベンダー製作だ。もともと1998年くらいからミラマックスで映画化プロジェクトが動いていたものである。出演はミッキー・ローク、ダイアン・レイン、トーマス・ジェーン、ジョセフ・ゴードン・レビット、ロザリオ・ドーソンという製作時期を考えるとなかなか慧眼、センスの良さだ。アンソニー・ミンゲラやシドニー・ポラックも脚本改定(ノー・クレジット)に借り出されており、腐ったとはいえアカデミー賞監督の作品だ。

仕事上のトラブルでマフィアから追われる身になったロークが偶然出会ったチンピラの計画を手伝うが失敗し、事件の目撃者である夫婦、トーマス・ジェーンとダイアン・レインを殺そうとする話である。、メインプロットを中心に小さく簡潔にまとまりすぎではある。そこらへんはテスト・スクリーニングの不評を受けた再編集の影響だろう。エルモア・レナード原作としてはオフビートに弾けた感じや、ウィットが足りない。良い意味での「たかがパルプ・フィクション」だとういう割り切り、軽さがあってもいいと思うが、なんか真面目な作りになっている。とはいえ、結果として尺も短いし、過大な期待をしなけりゃ楽しめる「魅力的な凡作」だと思う。

まあ、お笑いどころはある。ミッキー・ローク演じる殺し屋は、居留地出身の混血のネイティブ・アメリカンという設定である。そんなの云われなきゃわからんよ!しかも、会う人会う人、「あの不気味なインディアン」とかいってるわけ。どこどうしたら風貌ひとつでミッキー・ロークがネイティブ・アメリカンに見えるんだ?まさか、、くずれた顔と髪型??? そうなのか?

だが、それを「お約束ごと」と目をつぶれば、さすがはローク、渋い演技でいい仕事。もちろん『レスラー』以前もほそぼそと良い仕事を続けていたのは分かっていたが、この時期、主演扱いの大きな役は珍しい。コンビを組む羽目になる若い狂犬のようなチンピラを、いま大注目を浴びるジョセフ・ゴードン・レビットが熱演、これが『(500)日のサマー』の彼と同一人物とは俄かに信じられない化けっぷり。当方ごひいきのロザリオ・ドーソンもチョイ役だがいい雰囲気。

2010/09/20

スプーフもの2本: 『ほぼ300』 『鉄板スポーツ伝説』

The Comebacks (2007) ★  (@WOWOW録画)
Meet the Spartans (2008) ☆(@WOWOW録画)

WOWOWで録画した未公開コメディ 『ほぼ300』、『鉄板スポーツ伝説』を見た。

コメディ映画の中に 「スプーフ」もの、と呼ばれる映画のジャンルがあって、米国ではそこそこの人気を保っている。コメディ映画といっても、いわゆるパロディ・ネタや細かい映像的ギャグを連ねていくタイプのもので、かつて、ZAZと呼ばれたザッカー兄弟・エイブラムズのトリオが得意とし、『裸の銃を持つ男』や『ホット・ショット』といったヒット作が出た.

今回の2本はその系譜に連なるもので、『ほぼ300(Meet the Spartans)』は、最近このジャンルの映画の量産体制に入っているジェイソン・フリードバーグとアーロン・セルツァーのコンビによるもの。『鉄板スポーツ伝説(The Comebacks)』は、邦題だけはフリードバーグ&セルツァー・コンビの『鉄板英雄伝説(Epic Movie)』を踏襲しているが、ロブ・シュナイダーのヒット作『The Animal』(脚本)、『The Hot Chick』(脚本・監督)のトム・ブレイディの監督作品である。

この手の映画では、ギャグの質(アイディア)と数(密度)が重要なのはいうまでもないが、それだけではダメで、映像で見せるセンスと、それをきっちり演じて見せられる役者も重要だし、(明確なストーリー・ラインの有無にかかわらず)構成や脚本もまた重要である。簡単そうに見えて、案外難しいのだ。

そんな当たり前のことを理解するうえでは、見ているのが苦痛になってくるほどに退屈で寒いこの2本の存在価値があるのかもしれない。まあね、なんというか、惨憺たるもので。フリードバーグ&セルツァー・コンビには何も期待できないし、トム・ブレイディもロブ・シュナイダー(とアダム・サンドラー率いるハッピー・マディソン組)がなければこの程度の作家だということだ。

これなら、下品で頭の悪いキーナン・アイボリー・ウェイアンズ(『Scary Movie』 1, 2)のほうが数段楽しいと思うが、それでも『Scary Movie 3』でZAZの懲りない生き残りであるデイヴィッド・ザッカー&パット・プロフト組に交代したら、それだけでいきなり映画がピリッと締まったものだ。(どうやら久しぶりに『Scary Movie 5』をやるつもりらしいね。)いや、結局のところ、ZAZの前にスプーフなく、ZAZのあとにもスプーフなし、という状況なのだろうか。いやはや。