2010/07/28

インセプション

最後の最後、微妙なところで暗転して観客の想像力を刺激するセンスがいい。いや、すっきりしないから嫌だという人もいるんだろうけどさ。

娯楽大作の顔をしてはいるが、実態は全編やりたい放題やらかしたかなりの野心作で、サマー・ブロックバスターらしからぬ中身の濃さが見所。観客の何割かはついてこられずに脱落してしまうのでは?

他人の頭(夢)の中に侵入してアイディアを盗むプロフェッショナルたちが、それとは逆に、ターゲットとする人物にアイディアを植えつける難易度の高いミッションに挑む。それぞれ専門性の高いメンバーが、ミッション遂行のために自分の任務に邁進するという筋立ては、ちょっと「スパイ大作戦」的で面白い。こういう話は基本的に大好きだ。

レオナルド・ディカプリオ演じる主人公は、何の偶然だか彼の近作『シャッター・アイランド』と同様、妻や家族に対する罪悪感や深い喪失感を抱えた人物。彼の内面のドラマも心に触れるものがあるが、ディカプリオの演技が少し生真面目で、結局のところ毎回同じに見えてしまうのは欠点。ちなみに、彼のトレードマークは眉間のしわは12歳のときに出演した『クリッター3』からずっと同じだ(爆)

主たる舞台が「夢」の世界といっても、ターゲットとした相手をトラップにかけるために設計された多層構造の夢である。「夢の中の夢」では階層を重ねるごとに体感的な経過時間がどんどん長くなるという設定が実に面白い。この複雑なルールを映像にする力技が見所で、クライマックスに至っては時間の流れ方が異なる複数の階層での出来事をクロスカットで編集してみせるなどというトリッキーな演出が炸裂、まさにクリストファー・ノーランの面目躍如といったところ。ここのところは素直に面白かった。

山岳スキーアクションが露骨にボンド映画オマージュだなぁ、と思って見ていたら、本人がボンド映画をやりたいという思いを語っているようで。同じようにボンド映画をやりたいという思いが『インディアナ・ジョーンズ』になるのがルーカス&スピルバーグで、こういうクールだけど生真面目な映画になるのがノーランなんだぁ。

2010/07/17

トイ・ストーリー3

前作から10年を経て作られた、ピクサーの象徴たる『トイ・ストーリー』の続編である。絶対に外さないだろうとは思っているが、さりとてどんな作品になるのかと期待半分・不安半分で待っていたところ、作り手たちは、この10年という月日を、そのまま物語に織り込み、3本をまとめ、ひとつの大きな物語として完結させることを選択したのだった。続編ではなく、大きな物語の終章。

主人公たちの持ち主であるアンディ少年も成長し、大学に通うために家を出るというのが今作の発端である。そして、『2』のときに語られた「玩具と持ち主の関係」、「玩具としての幸せは何か」というテーマを、もう一歩、深くつきつめていく。

・・・まあ、そういう意味で言えば、テーマ的には前作で一度扱ったものの焼き直しである。が、前作で、いつか必ずくるであろう「別れのとき」を覚悟しながら、いったんは持ち主の元に帰ることを選んだ主人公、ウッディが、いよいよ「その時」を迎える話しである、と思うと感慨も深い。

センチメンタルに流れがちな設定だが、そこはピクサー、脱獄ものの要素を取り込んだアクション・アドベンチャーとしてストーリーを練り上げてきた。大技小技から爆笑必至のギャグに至るまで、実によくできていると思う。しかし、その一方、致し方ないことと承知しつつも、「悪役」を必要とする物語の構造は安易だとも思う。まあ、悪役の描き方も前作以上に深みがあって、そういうところに手抜かりがないのもまた、ピクサーの仕事ではある。

一番大きく進化したのは人間のキャラクターの表現。キャラクターのデザインも(1作目、2作目に比べて)可愛くて親しみやすいものへと変わっているのだが、それ以上に、見せ方、演出のレベルが格段に高くなった。本作の肝でもある「別れ」のシーン、まさか、『トイ・ストーリー』なのに、人間キャラクターの「芝居」で泣かされるとは思いもよらなかった。