2009/05/31

Star Trek: Countdown (5)

J.J. エイブラムズが指揮を執る新『スター・トレック』の前日談である『Star Trek: Countdown』は、プロの仕事というよりファン・ノベルの程度といったほうが似合うくらいにいい加減で荒っぽい設定が頻出し、おなじみのキャラクターの「その後」についても納得のいかない展開があるという、ちょっと困ったコミックなのである。

とはいえ、本書で語られたバック・ストーリーは、映画本編中では台詞でちゃちゃっと説明されるだけだと考えられるので、Star Trek 好きならば、一応、映画本編とワン・セットだと考えて目を通しておくのが良いだろう。

ネロとスポックの因縁。ロミュランが壊滅したこと。ロミュラン人が喪に服す習慣として剃髪し、模様を描くこと(ネロたちは決して消えない悲しみゆえに刺青を彫った)。ネロの船はもともと鉱物の採掘船であること。その採掘船が24世紀に遭遇したある種族の技術によって改造を施され、恐るべき戦艦へと変貌を遂げたこと。

これらのことの説明は、全てこのコミックの中にある。

また、本書の内容を不愉快に感じたとするなら、おそらく、映画本編ではもっと不愉快な気分を味わうことになるに違いあるまい、、、といういう意味でも、心の準備になる一冊でもあるだろう。

ともかく、今度の映画は全く新しい仕切りなおしであると同時に、これまでの世界との接点を「時間改変によるパラレルワールド」というかたちで残し、従来ファンに対する配慮をしたかたちになっているということは明白な事実といえるだろう。(終)

2009/05/30

Star Trek: Countdown (4)

J.J. エイブラムズが指揮を執る新『スター・トレック』の前日談である『Star Trek: Countdown』は、従来シリーズの最終作『Nemesis』に続く話で、24世紀が舞台となっている。だから、主に 『The Next Generation』シリーズのキャラクターが客演しながら話が進んでいくのだが、作中での扱いに不満の残るキャラクターもあり、納得がいかないことも多い。

作り手の立場で言えば、もう従来のタイムライン上にある24世紀ものを自ら手がけることはないわけだから、何が起こっても関係ないといったところだろう。でも、従来からのファンの立場、特に24世紀もののファンの立場でいえば、従来のタイムラインはそのまま平穏に温存されている方が嬉しいにきまっている。

まあ、それ以前の問題として、話が荒っぽいなぁ、と思うのである。

これが所詮「コミック」だからという前提があれば、超新星が宇宙を飲み込むだの、赤色物質(red matter?)で人工ブラックホール(!)を作るだの、(ブラックホールの先が過去につながっているのなら、超新星はどこにいっちゃうの?だの、)幼稚で頭の悪いアイディアも読み流すことが出来る。が、そのままストレートに映画版に引き継がれているようだから困ってしまう。

プロの仕事というより、ファン・ノベルの程度、というか。

まあ、長いシリーズの中には、これ以上にどうかと思うアイディアやネタもたくさんあったんだけれどね。(続く)

2009/05/29

Star Trek: Countdown (3)

ロミュランの鉱物採掘船の指揮官であるネロの協力を得て、宙域に破滅的な影響を及ぼす超新星を葬りさる計画を実行に写したスポックであるが、不幸なことにロミュランの壊滅を食い止めるのには間に合わなかった。

そんなスポックの前に、眼前で母星を失い、妻子も失った悲しみで逆上するネロが現れる。追撃をかわしたスポックは「レッド・マター(赤色物質)」を使って人工ブラックホールを作り、間一髪で超新星を消滅させるのに成功する。。。のだが、ブラックホールが作り出した時空の裂け目はスポックの乗る宇宙船と、ネロの乗艦を丸ごと飲み込んでしまうのだった。

そんな話である。

舞台が24世紀なので、主に 『The Next Generation』シリーズのキャラクターが客演しながら話が進む。これが、従来ファンに向けたお楽しみというわけである。

惑星連邦の駐バルカン大使として着任しているピカード。クリンゴン艦隊を率いるウォーフ将軍。引退し、自らの設計による特殊な航宙艦を建造しているジョーディ。そして、B-4のニューロ・ネットにメモリーバンクをコピーすることで復活し、エンタープライズの艦長を務めるデータ。

キャラクターが出てくるのは嬉しいが、作中での扱いに不満の残るキャラクターもあり、これが正史だといわれるのは正直、嫌だな、と思う。特に、ウォーフの扱いには納得がいかない。(続く)

2009/05/28

Star Trek: Countdown (2)

Star Trek: Countdown』は、J.J. エイブラムズが指揮を執る新『スター・トレック』の公開を前に発売されたコミックで、同作品の脚本家が映画の「プロローグ」、つまり、背景設定となるストーリーを書き下ろしたものである。

物語の舞台は24世紀。時間軸でいうと、劇場版第10作の『Star Trek: Nemesis』の後という設定で幕が開く。

ストーリーはこうだ。

映画版第10作(「TNG」第4作)である『Nemesis』(邦題『ネメシス S.T.X』)における事件の後、一応は政体の建て直しと民主化が進められていると思しきロミュラン。今ではおもてだった活動を行うことができるようになっていたスポックが、領域内で発生している超新星が巻き起こしている異常な事象に対しての警告を行う。これを放置すれば、やがてロミュランに、そして銀河全体に大きな災厄をもたらすという。

スポックはロミュラン政府に協力を申し出るが、懐疑的な評議会はこれを拒絶する。一方、評議会の決定に不服を持った鉱物採掘船の指揮官・ネロという男が、秘密裏にスポックへの協力を申し出る。

スポックの計画は、人工ブラックホールを生成することで超新星を葬りさるというもので、希少な鉱物資源と、バルカンの科学技術が必要であった。ネロから鉱物資源の供与を得たスポックだったが、技術供与に慎重な母国・バルカンの説得に手間取っているうち、超新星の影響がロミュランに及んでしまう。(続く)

2009/05/27

Star Trek: Countdown (1)

当方は『Star Trek』シリーズの長年のファンであるから、今度の新作については期待と不安が入り混じった気持ちで公開を待っている。関連するネタとして、今回は邦訳未発表のコミックについて書く。しばらく前に購入し目を通していたのだが、映画の国内公開までに時間があったので、敢えて言及を控えていた。


『Star Trek: Countdown』は、J.J. エイブラムズが指揮を執る新『スター・トレック』の公開を前に発売されたコミックで、同作品の脚本家が映画の「プロローグ」、つまり、背景設定となるストーリーを書き下ろしたものである。


映画版の予告編で、エリック・バナ演ずる敵キャラクターが "James T. Kirk was a great man... but that was another life" (字幕では「ヤツとは別人だ」という微妙な訳)と語っていたのを覚えているだろうか。さらに、スポックことレナード・ニモイの出演が正式に公表されていたから、これらからの類推で、「ははぁ、過去を描くとか、リ・イマジネーションとかいっているが、タイムトラベルによる歴史改変/パラレル・ワールドものとして全リセットを図るつもりだな」と勘付いたことだろうと思う。

要するに、これまで描かれてきたサーガ、いわゆる「正史」と、新作以降で描かれるパラレル・ワールドとのブリッジがこのコミックだ。

新しい『スター・トレック』が、事実上『スター・トレック 11』でもあるが、新シリーズはパラレルワールドなので事実上、何でもありになりますよ、という、旧来のファンへの目配せをかねた言い訳となる作品ということである。

そんなわけで、物語の舞台は24世紀。時間軸でいうと、劇場版第10作の『Star Trek: Nemesis』の後という設定で本書の幕が開く。(続く)