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2011/11/28

最強絶叫ダンス計画(2009)

Dance Flick (★)

相も変わらず WOWOW録画で未公開映画の追いかけだ。

原題 Dance Flick、「ダンスもの」というタイトルの、ダンスもの映画のパロディ映画。邦題は、これが "Scary Movie" ウェイアンズ一派の作品であることを示す記号以上の意味はないな。(だって 絶叫=”スクリーム" 計画=ブレアウィッチ "プロジェクト"だし)・・・というか、他の作家のパロディ映画にも節操無く似た邦題をつけてるから、「ナンセンスなスケッチを並べたくだらねぇパロディ映画」の記号ということか。

しかし、このジャンルは死んだね。今世紀に入ってからコンスタントに作品を出しているのはウェイアンズ一派とフリードバーグ&セルツァー組なんだけど、両方とも全くもって面白くないんだもん。ウェイアンズ一派で始まった"Scary Movie"シリーズが、途中で何故かザッカー/プロフト組に先祖返りして「まともに面白い」映画になったことではからずも実証されたように、ジャンルの創始者たる"ZAZ"以降、それを越える才能が出てきていないってことだ。

で、本作。土台になっているのは、可愛気のない顔つきで日本では全く人気のないジュリア・スタイルズ主演の 『セイブ・ザ・ラスト・ダンス (2001)』で、バレリーナを夢見る白人の女の子が、母親の突然の死によって引越しを余儀なくされ、ヒップホップ・ダンスの得意な黒人の恋人と付き合うようになっていく流れに沿って、様々なナンセンス・ギャグやパロディが串刺しになっているというわけだ。

Dance Flick とはいうけれど、「ダンスもの」映画への愛とか尊敬がなさすぎるのがつまらない第一の理由なんだろうな。だいたい、ダンスものをネタにしたギャグも少ないんじゃないか。振付もダンスも酷いもので見ていられない。パロディであればこそ、そこは真剣にくだらないことをやるべきなんじゃないか。それと、ギャグが面白くないだけならともかく、不愉快なのもある。レイ・チャールズの扱いや、ゲイのネタ。いや、ほら、ダンスものなんだからゲイがネタになってもいいよ。"Fame" が "Gay" になるダンス・シークエンスは作品中でも数少ない「面白くなったかも知れない」シーンの一つだとは思うよ。でも、作り手の意識の低さが丸見えだから、笑えるより前に不愉快になるんだ。

ちなみに監督のダミアン・ダンテ・ウェイアンズは、我々のよく知るところのウェイアンズ兄弟の甥、本作の主演デイモン・ウェイアンズJr は名前の通りデイモン・ウェイアンズの息子。け、いつのまにか世代交代が起こってんでやんの。

2011/11/21

アラフォー女子のベイビー•プラン(2010)

The Switch (☆☆☆)

映画では決定打に恵まれないジェニファー・アニストン主演の、ロマンティック・コメディ、じゃないよな、これ。実態は、ジェイソン・ベイトマン主演の変則的な「片思い」映画である。コメディだけど、笑えない話だし、ロマンスだけど、ぜんぜんロマンティックじゃない。

友人以上の好意を抱いていた女性が、年齢を理由にしてドナーから精子の提供を受けて人工妊娠で子供を作ると決意してしまう。施術により妊娠に成功した女性は出産と子育てを理由に田舎に帰ってしまう。7年後、子供を連れてNYに戻ってきた女性と「友人」として再開した主人公は、「友人」として彼女の子供と接するうち、内向的でややこしい性格の子供が、ドナーとなった男に似ていないばかりでなく、むしろ、自分に似ていることに気づく。そういえば、記憶があやふやなんだが、施術の前に、酔った勢いでドナーの精子と自分の精子を入れ替え(=The Switch, 原題)たんだっけ。

本質的には、お互いに憎からず思っていながら、互いの関係を「友人」と定義したがためにややこしい関係に陥る男女が、大きな回り道をしてあるべきところに収まるという話ではある。そこに「人工授精で作った子供」と、「裏の事情」、裏の事情を知らない「ドナー」との関係に深入りしていく女、いまさら裏の事情を話すわけにいかなくなって窮地に陥る男、と、映画ならではの複雑な状況を作り出し、スムーズに流れる話にまとめあげた脚本が秀逸。

人工授精のプロセスで、ドナーの精子を第三者が勝手に入れ替えるなどという無理のある要素を含む設定も、「大きな決断である施術に当たって、勢いも必要だと知人・友人を招いてパーティを開く」、「パーティには医者も招き、そのまま自宅で施術」、「誰のものか分からない凍結精子は嫌なので、自ら募って選んだドナーをパーティに同席させ、直前に新鮮な精子を採取」などの、大嘘・大技を自然な流れの中で連発する力技には脱帽する。しかも、そこまでやってのけて映画の半分、というか、前段に過ぎないのだから大変だよ、これは。アラン・ローブ(『ウォール・ストリート』『ラスベガスをぶっつぶせ』)って、なかなかやるじゃないか。

ジェニファー・アニストンは、いかにもこういう身勝手なことを言い出しかねない「都会で働く自立した女性」像を、嫌な女にみせずに演じていて適役。実質的な主人公を演じたジェイソン・ベイトマンがなかなかうまい。いつも目立たない脇役ポジションで、名前と顔がつながらなかったのだけど、この映画で覚えたぞ。実は子役上がりの大ベテランなんだね。一見爽やかだが、あんまり中身のなさそうな「ドナー」をパトリック・ウィルソン。その他、ジュリエット・ルイス、ジェフ・ゴールドブラム がちょっとした役で出ている。監督はジョシュ・ゴードンとウィル・スペックのコンビ(『俺たちフィギュアスケーター』)。こういう映画が撮れるんだね。びっくり。

2011/11/19

妖精ファイター(2010)

Tooth Fairy (☆☆☆)

ロック様ことドゥウェイン・ジョンソンは、映画界への転身を一番うまくやってのけたレスラーといっても過言じゃあるまい。とりたてて演技がうまいわけではないが、立派な体格で存在感は抜群だし、子犬のような愛嬌があったりする。出演する映画の幅も、かつてのシュワルツェネッガーがそうだったように、アクションとコメディの両方にまたがっていて、なかなか器用なものである。まあ、日本のマーケットではどちらの路線も冷遇されているけどさ。

で、この作品は、ファミリー向けのコメディのほう。『妖精ファイター』、原題は「歯の妖精」。ファイターって・・・・何。

抜けた乳歯を枕の下に置いておくと、「歯の妖精」さんがやってきてコインと歯を交換してくれる、という西洋の言い伝えがありますな。米国ではコイン=クォーター(25セント)が相場だと思っていたら、映画の中では1ドル紙幣だっていうんだから乳歯の値段も高くなったものだ。

ドゥウェイン・ジョンソンが演じるのは、盛りを過ぎたアイスホッケー選手である。この男が付き合っているシングルマザー(アシュレイ・ジャッド)の連れ子に、歯の妖精なんていないと現実を教えようとしたため、妖精の世界に召喚されて「夢を壊そうとした罪」を問われ、1週間のあいだ「歯の妖精」の仕事につくことを強要されるという話なんだな。

この主人公は、ラフなプレイで知られていて、試合中に相手選手の前歯を折ったりするものだから、皮肉なことに「Tooth Fairy」などというニックネームが付いている。そのイカツイ体に童話風の羽が生えてきて本当の「歯の妖精」にさせられてしまい、悪戦苦闘するというのがメインプロット。あの「ロック様」がメルヘンな衣装に身を包み、作り物の羽がピロピロ生えている絵面はなかなかミスマッチ、良い意味で恥ずかしい。

妖精の世界を取り仕切るボスは、なんと、(声だけを除けば)『プリティ・プリンセス2』以来、6年ぶりの出演となるジュリー・アンドリュースだ。1935年生まれだというから、それなりのお年になっているんだが、とても優雅で美しく、貫禄もあり、コメディのセンスもあるんだからスゴい。妖精が仕事をするために必要なガジェットを用意してくれる、いってみれば「007におけるQ」の役周りがビリー・クリスタル。出演時間は短いのに、しっかり笑いをとっていく軽妙な演技と話芸はさすがだ。

単にドタバタに終始するだけでなく、現実的でシニカルな主人公と、恋人の連れ子たち、妖精界の「ケースワーカー」として主人公に付きそう羽のない妖精との関係を積み上げていく中で、なんと、主人公が過去の挫折から再起する物語へと収斂させていく脚本がなかなか秀逸。ローウェル・ガンツとババルー・マンデルっていえば、90年代にビリー・クリスタルやハロルド・ライミス、ロブ・ライナーらとコメディの佳作をものにした脚本家コンビじゃないか。監督はTVがメインのマイケル・レンベック。

2011/11/16

お願い!プレイメイト(2009)

Miss March (☆)@WOWOW録画

主演しているザック・クレッガーと トレヴァー・ムーアが20世紀フォックスからカネを引き出して作った(脚本・監督)は薄笑セックスコメディ。

高校時代に清いお付き合いをしていた男が、プロムの夜のアクシデントで昏睡状態となってしまう。4年後に目がさめてみると愛する清純な彼女はなんと"ミス3月(原題)"としてプレイボーイ誌のカバーを飾っており、赤裸々なセックス体験を語っているではないか。子供の頃からの悪友に引きずられ、プレイボーイ帝国を築いたヒュー・ヘフナー邸で行われるパーティに潜入するために、サウスキャロライナからLAまでの珍道中が始まる、という話。

なんか、本国で公開した時に当たってた記憶があったので見てみた。が、ひでぇーなー、これ。

下世話なコメディは珍しくもないけど、キャラクターに爪の先ほども共感できないんだから困る。特に、主人公の悪友のキャラクターが最悪。ネジの切れたセックスキチガイでもいいよ。でも、『アメリカン・パイ』のスティッフラーだって、ここまで酷いキャラクターじゃなかった。ただの非常識男、トラブルメイカーという枠を超えて、悪人なんだもの。いくら非常時だからって、彼女の顔をフォークで刺して逃げるか?車から路上に放り出された女をそのまま放置するか?昏睡状態の友人をバットで殴るか?これで笑えというほうが無理だよ。

ロバート・ワグナーをヒュー・ヘフナー役にキャスティングして撮影していたのだが、ご本人がラフカットを気に入って出演を快諾したがゆえ、ヒュー・ヘフナー登場シーンを本人出演で全部撮り直したんだそうだ。おかげでロバート・ワグナー(『オースティン・パワーズ』のナンバー・ツーな)は、この救いがたい駄作に顔が残らずに済んだわけだ。

2011/11/09

デート&ナイト(2010)

Date Night (☆☆☆)@WOWOW録画

コメディ好きにはお馴染み、『40歳の童貞男』のスティーヴ・カレルと、「サタデー・ナイト・ライヴ」のヘッドライターも務め、サラ・ペイリンのモノマネでも話題を呼んだ才女、ティナ・フェイが共演するコメディ映画。原題は"Date Night"だけど、邦題はトム・クルーズ主演作にひっかけて、なぜか真ん中に「&」が入っちまうんだな。

2人が演じるのはニュー・ジャージー暮らしの子持ち・共働きの夫婦。仕事に子育てに忙しい毎日だが、ときおりベビーシッターを頼んで夫婦二人の時間("Date Night")を楽しむようにしている。といっても、普段は近所のファミレスで食事したり映画を見に行ったりする程度のことなのだが、ある日、ちょっとした思いつきからマンハッタンで超人気の高級レストランに出かけて特別な夜を楽しもうとしたことから、トラブルに巻き込まれ、とんでもない一夜を過ごすことになるというお話し。もちろん、その経験を通じて二人の絆が一層深まるという定番のストーリー。

気楽に見られて、気持よく笑える良作。主演のこの二人は、普通にしていたら「普通の人」に見えるが、やはり芸達者。「普通の人が、普通でない状況におかれて、普通じゃない行動をとるが、本人達にそれほどだいそれたことをしているという自覚があるわけでもない」という一連の流れに説得力を与え、観客から好感され、過度なコメディ演技に陥ることなくきっちり笑いをとるのって、案外難しいものだよね。二人の相性も抜群で、もはや小手先の「演出」を必要としないレベル。これ一本じゃもったいない、このコンビで何本かやってほしいと思う。

それと、この映画、配役が映画ファン的には豪華。マーク・ウォルバーグ、ジェームズ・フランコ、ミラ・クニス、マーク・ラファロなどが登場。いつも上半身裸のマーク・ウォルバーグが画的に面白すぎる。

監督はショーン・レヴィ。スティーヴ・マーティン主演の『12人のパパ』『ピンク・パンサー』、ベン・スティラー主演の『ナイト・ミュージアム』シリーズ、そして待機中の『リアル・スティール』でコメディじゃないジャンルへも挑戦している。一応、スマッシュ・ヒットが続き、手堅く「計算」できる監督なんだろうが、本作を含めて、あんまり監督の手腕で映画が成功したとまでは思えない作品ばっかり並んでいるんだよなぁ。

2011/11/03

迷ディーラー!? ピンチの後にチャンスなし(2009)

The Goods: Live Hard, Sell Hard (☆☆)@WOWOW録画

進退極まった中古車ディーラーの助っ人として雇われたプロのセールス・チームが先頭に立って、独立記念日の週末にあの手この手で在庫車を売りさばこうとするドタバタ・コメディだ。

作り手のインスピレーションは、ロバート・ゼメキスのデビュー作である中古車屋ドタバタ・コメディ『ユーズド・カー』と、デイヴィッド・マメット原作のセールスマンもの『摩天楼を夢みて(グレンギャリー・グレンロス)』にあるという。ジェレミー・ピヴェン主演(←めずらしい)、ヴィング・レームス、ジェームズ・ブローリン、ケン・チョンなど。製作にウィル・フェレルが絡んでいるのだが、映画のノリはそちらな感じで、かつ、カメオ出演もしている。

米国における「中古車のセールスマン」は、信用出来ない人間の代名詞のひとつ。口八丁手八丁で「レモン(欠陥車)」を売りつけ、売った者勝ちというイメージだな。そんな中古車ビジネスを舞台にしてはいるが、この映画、基本的に中古車セールスマンを揶揄したり貶めるものではない。基本的フォーマットは、万年負け組が奮起して結果を残すという、スポーツ物などに典型的なパターンの話であり、それぞれの立場でそれぞれに頑張っている、少し変わった人間たちへの賛歌である。そこまですっきり爽やかで気持ちよい映画ではないけどな。

笑いのネタも、半分面白く、半分不発。コメディ好きの自分でも、「やっすいマチネー料金で見ている分には許容できる程度」の映画だなと思うんだから、出演者も地味なコメディでそういう出来映えであれば未公開街道まっしぐらも致し方ないか。

ところで、主人公が、現場の士気を高めるために朝のミーティングで「パールハーバー」を例えに出したら、感情が昂ったセールスマンたちが(『ハング・オーバー!』や『トランスフォーマー3』で有名になったアジア系のコメディアン)ケン・チョンをタコ殴りにするというギャグがあった。ケン・チョンの役は日系ですらない、というオチがつく。これ、ちょっと嫌だなぁ、笑えないなぁ、と思って見ていたら、案の定、「差別的」だと日系人のコミュニティが抗議したらしい。

コメディのネタにケチをつけたり、あんまり表現を自粛したりするのは無粋だと思っているのだが、やってよい表現とダメな表現の境界線はなかなか難しい問題だ。

上記についても、毎朝毎朝、「ホロコースト」を例えに出してドイツ系をボコスコにし、「アラモ」を例えに出してネイティブ・アメリカンをズタボロにし、「911」でアラブ系を、「KKK」ネタで有色人種が白人全員を叩きのめし、と反復したうえで、「21世紀になっても進歩のない連中だな」くらいの批評的な台詞でオチをまとめれば、アリだったかもしれない。

要は、作り手が、そこで行われている行為を間違ったことであると認識していることを明確に示しているかどうかなんじゃないか。もちろん、ギャグにしているということは、それが「政治的に」間違っているという認識は示しているのに等しい(ので、あまり目くじらをたてたくない)が、本音ではOKと思っているようにも受け取れるから気分が良くないし、反発も出てくるのだな。あと、特定の人種なり何なりだけをターゲットにするのでなく、様々な事象の中で相対化されているほうが批評性につながると思うんだがどうだろうか。"Avenue Q" の歌詞じゃないが、「誰もが少しだけレイシスト♪」なノリになっちゃえば、不謹慎とはいえ、差別的だとは感じないものだ。

2011/09/21

ザ・レイプ 欲望の報酬(2010)

Mes Cheres Etudes (Student Services) (☆☆☆)@WOWOW録画

まあ、なんだか酷い邦題なんだけど。フランスのTV映画、らしい。

3年ほど前に、フランスの学生の経済的な困窮と、それが原因でネットで媒介される学生売春の広がりが話題となったことがある。フランスの大学は学費が殆どかからないなど恵まれたイメージがあるが、親からの十分な援助が得られない、あるいは、大人になったら経済的に自立するのがあたりまえだという考え方が根強く、同時に、労働市場の慣行から学生や若者の職業機会が限られていることなどが背景にあるんだそうだ。それで、生活費を稼ぐため、手軽にかせぐことができる売春に深入りした経験談などが相次いで出版されたことで、ある種、社会問題的な注目を集めたらしい。

これは、そうした出版物のなかで語られたある学生の経験談を脚色・監督したもののようだ。題材が題材なので全編いろいろと「エロ」はあるんだけど、女性監督(エマニュエル・ベルコ)の作品であることも手伝って、社会的な問題提起を隠し味にした「貧乏女子学生の青春映画」になっている。

題材的には、「大学をきっちり卒業したい貧乏学生が生活費に困って売春する」話なので、「小学生が親に強制されて家族を養うために売春」させられていたり、「中高生が遊ぶ金欲しさに売春」しているこの国の現在を思えばなんら驚きも何もなく、まあ、70年代だったら成立したかもね、という感じだろうか。

でも、売春が違法ではないフランスでこういう話がセンセーショナルになるというのは、やはり、社会階層意識みたいなものが強固に残っているためなのかな、と思ってみたりする。

それはともかく、「貧乏女子学生の青春映画」としては面白い。最初は恐る恐る、しかし必要に迫られて仕事に手を染めた素人そのものの主人公が、身を守る術もなく危ない橋を渡りながら、しかし簡単に手に入る大金で感覚が麻痺していく心理をうまく描き出していて面白い。

それに、ラスト。学位をとって卒業し、仕事を得てもなお、十分な収入を得ることが出来ずに過去の稼業を続けていることを示唆して、個人の特異な体験談ではなく、背後にある構造的な問題を浮かび上がらせているあたりが、作り手の「ただのエロ映画では終わらせない」意気込みを感じさせて、印象に残った。

もう少しましな扱いを受けてしかるべき作品だとは思うんだけどな。これ。

2011/09/20

恋する宇宙(2009)

Adam (☆☆☆)@WOWOW録画

あー、何を期待したら良いのか分からない、意味不明な邦題ですが。

原題はAdam、主人公の男の名前ですね。で、この男、あきらかに日常生活に難儀を生じるレベルのアスペルガー症候群なわけ。彼を庇護してきた父親を失い、折からの不況で(父親の後ろ盾によって就くことができた)職も失ってしまう。この男が、同じ建物に越してきた代用教員をしている女性と出会い、恋をし、次第に交流を深めていく。これは、そういう真面目で苦目なロマンティック・コメディ(だけど、コメディのほうにはあまり重心がない)なのね。ちなみに製作はお馴染み"フォックス・サーチライト・ピクチャーズ"だから、お気楽なデート・ムービーではないことは、自明。

この映画は、わりと面白い。互いに好意を抱いていても、その距離を縮めるため、互いに乗り越えなくてはならない大きな障壁を抱えたカップルの話という意味では、普遍的な物語でもある。また、夢物語のように甘い話にはなっていない。乗り越えられない一線もあるのだ。でも、つらい現実を追認して終わるような冷たい映画ではない。ほんの少しだが、将来への希望を垣間みせて幕を閉じる脚本はとても後味がいい。

男の発達障害をどのくらい正確に描いているかはわからない。が、この映画の主人公は"「王様は裸だ」と声を上げてしまうある種の純粋さ(とKYさ)を持ち合わせた子供"と重ねあわせて描かれている。周囲に庇護されてきたがゆえの、精神的に未成熟なところを持った青年だ。女性は主人公のそんなところに惹かれるが、それゆえに素直なハッピーエンドには向かうことができない。

で、男が宇宙、天体観察等にも興味を持っているエンジニアで、自室がプラネタリウム状態になっていることが・・・「宇宙」?なんだよね。きっと。

2011/09/18

恋する履歴書(2009)

Post Grad (☆☆★)@WOWOW録画

これ、未公開映画かな。WOWOWの放送を録画してみた、原題 "Post Grad" 、卒業後、といったところか。

大学を卒業した主人公の女の子が希望する出版会社に就職できず、あちこちに応募するもうまくいかず、同級生で東海岸のロースクールに行くか迷っている恋人ともしっくりいかず、隣に住んでいるブラジル人CMディレクターといちゃついてみたりしながら、自分が大切に思うものは何かに気がついていく話。

邦題だと、溌剌とした女の子を主人公にして、就職活動頑張ります!というのか、「就職戦線異状なし」+ロマンティック・コメディみたいな印象をうけるが、恋に仕事(就職活動)に頑張る女の子の話ではないんだな。

終盤、せっかく手に入れたチャンスを平気でふいにするし、この子がどういうキャリアを築いていくつもりなのか、さっぱり謎。そのあたりを何も描かないまま「ハッピーエンド」にしてしまうという意味で、そもそも「女の子とキャリア」をテーマにした映画ではないっちゅうことだろう。ただ、もともとそういう映画ではないとしても、ちょっとそのあたりは釈然としない。女性監督なんだから、なおのこと、違った描き方があったんじゃないかと思う。

主役を演じるアレクシス・ブリーデルという女優さんは可愛い。"The Sisterfood ofthe Travelling Pants" (邦題忘れた)シリーズが一番代表作っぽいようだけど、それを見てないので主演扱いで見るのは始めてだ。彼女の家族が描かれるウェートが高いのだが、少しユニークで愛すべき父親役としてマイケル・キートンが出演していて、なかなか良い味を出している。

監督のヴィッキー・ジェンソンって、アニメ畑の人で、ドリームワークスの『シュレック』『シャーク・テイル』で監督としてクレジットされているんだね。実写は始めてなんじゃないの?

2011/08/26

屋根裏のエイリアン(2009)

Alien in the Attic(☆☆☆)@WOWOW録画

WOWOWの録画でみた、国内劇場未公開作品。親戚と一緒に避暑地にやってきた少年少女が、地球侵略にやってきた少々間抜けな宇宙人の先遣隊と遭遇し、大人の手を借りずに撃退するためにドタバタのバトルを繰り広げる。

子供たちを主人公にした、ファミリー向け(というか子供向け)のアドベンチャーものというジャンルは、おそらくそれなりに作られているのだろうけれども、なかなか日本の劇場では公開されない今日この頃。名の知れたスターもいなければ、ディズニーとかの冠もないのだから、まあ、そういう扱いもむべなるかな、である。

だけど、これ、そこそこ面白いんじゃないのかね。子供向きだと割り切った甘い作りではあるけれど、86分、お約束事も含めてきっちり楽しませる良心的な作りだと思う。ひまつぶしには悪くないよ。

地球侵略とかなんとかいっているのに片田舎の別荘にやってきて子供たちとバトルを繰り広げる小型で間抜けな宇宙人は、どこか「ケロロ軍曹」かなんかに触発されたんじゃないかと思わせるものがある。また、地球存亡の一大事(本当か?)だというのに、大人はあてに出来なくて、子供たちだけで何事もなかったかのように対処しなければならないという筋立てや、その闘いが屋上から地下室まで、一件の家の中だけで完結するという発想は、藤子F的な裏庭SF風だったりもする。しまいにゃ、ビッグライトで巨大化したりするしな。うん。

尺が短いぶんだけ、親子や家族の絆、みたいな米国映画お得意のお説教が少なめで、大人を蚊帳の外に押しやってしまっているところが、子供目線では良いバランスに思えるかもしれないな。

音楽担当ジョン・デブニー。昔からこういうファミリー向けのコメディっぽい作品では良い仕事をしている印象。しかし、超多忙なはずのに、こんなものまでやってるってのは大変だよなぁ。

2010/12/15

エディ・マーフィの劇的一週間 (2009)

Imagine That (☆☆☆)@WOWOW 録画

WOWOWで放送された国内劇場未公開映画を録画で鑑賞。

1982年の『48時間』で鮮烈な映画デビューをしてからすでに30年近いエディ・マーフィだが、そのキャリアには幾度もの浮き沈みがあるわけだが、ここ数年の低調ぶりはちょっと目に余るものがある。『ドリーム・ガールズ』でアカデミー賞ノミネートされながら受賞できないとわかると憮然とした表情で会場をあとにして業界内で不評を買ったのがケチの付き始めではないか。この間の離婚や子供の認知をめぐるスキャンダルで、鉱脈を見つけつつあった「良き父親」キャラクターが傷ついたのも痛いところだ。

で、本作。これも「父親キャラクター」によるファミリー・コメディ路線の一本である。まあ、仕事一筋で父親失格の男があることをきっかけに娘との距離を縮め、父親としての責任に目覚めるといったよくある話なのだが、久々にちょっと面白い。

エディが演じるのは機関投資家や富裕層を相手にした投資顧問会社のやり手マネージャーだ。創設者が会社を売って引退しようとしているらしいときき後釜を狙うべく奮闘するが、先住民気取りのプレゼンテーションで顧客の心をつかむライバルに遅れをとりがちで焦っている。そんな大事なタイミングで、別れた妻との約束で娘の面倒をみなくてはならないようになる。両親離婚のショックからか、安心毛布を手放さず想像上の友達(imaginary friends)と会話をする娘に手を焼くエディは、仕事に使うドキュメントをめちゃめちゃにされて激怒。ところが、落書きやイタズラに見えたそれは、娘が想像上の友達から聞きだした投資アドバイスで、その的中度合に上司も顧客も度肝を抜かれることになる。

そんなわけでエディは、最初は半信半疑で娘と一緒に毛布を被り、娘が遊ぶ想像上の世界でご神託を聞こうとするようになる。このあたりから、先入観なしに映画を見ていると、この話がどのように展開していくのか、ちょっと想像ができなくなってくる。果たして、毛布をかぶって回転するとそこにはファンタジー世界が広がっているのか?・・・いや、実のところ、映画のミソは、主人公であるエディにも、観客にも、娘が言う想像上の世界や友達が見えるわけではないことだったりする。

自身の出世のために娘を利用していたエディが、どこで父親としての責任を自覚したのか、どんな心境の変化があったのか、肝心なところが丁寧に描かれているとはいえないが、毛布一枚に子供じみた大騒ぎになった挙句、ハっと我に返る瞬間があったのだろうと想像する。

共演する「先住民気取り」のトーマス・ヘイデン・チャーチの怪演、伝説の投資家マーティン・シーンの貫禄がいいね。

2010/11/07

ゴーストたちの恋愛指南!(2009)

Ghosts of Girlfriends Past (☆☆☆★)@WOWOW 録画

さて、WOWOWを契約してみるようになってしばらくたつが、楽しみのひとつは「未公開もの」だ。どうしようもないのもあるが、結構な割合でこちらの好みの作品が放送されている。

で、これもそんな一本だ。邦題ではコメディだろう、ということの他には何のことやらさっぱり分からんのだが、原題を聞けばピンとくるんじゃないか。

Ghosts of Girlfriends Past...ね?

そう、最近ではロバート・ゼメキス版も公開されたディケンズの『クリスマス・キャロル』の翻案なんだな。

ご存知のように、「クリスマス・キャロル」では、強欲なスクルージのところに3人の"Ghosts of Christmas" (Ghost of Christmas Past/Present/Yet to Come)が順番に彼の元を訪れ、過去・現在・未来をめぐり主人公に改心を迫る。本作では、女たらしのファッション・フォトグラファーのところに、過去・現在・未来の女の霊(生霊?、妄想?)が現れて、生き方を変えないと寂しい死を迎えることになると揺さぶりをかけられる。

主人公はマシュー・マコノヒー。この人は、無責任な軽さだけでなく、自信過剰で嫌な奴が実は真摯でいい奴という2面性や、揺れる胸のうちみたいなものを無理なく見せられる。3枚目もいけるが、2枚目もいける。『トロピック・サンダー』ではオーウェン・ウィルソンの代替みたいな役を演じたが、オーウェン・ウィルソンには本作の主人公は務まらないだろう。案外微妙な違いが大きな違いになるものだ。

で、この男を無責任な女好きに育てた師匠(叔父)が、なんと、マイケル・ダグラスだ。このキャスティングを思いついた奴は天才じゃなかろうか。映画ファン的に一番の見所は、ロバート・エヴァンスを模したと噂のダグラスの演技であることは間違いない。本作のヒロインで、主人公がかつて愛していた女性がジェニファー・ガーナー。まあ、ちょっとゴツいんだが、役柄としては合っている。そのほか、ロバート・フォースター、アン・アーチャー、ブレッキン・メイヤー、エマ・ストーン、、、映画好きにはわりと豪華な面々が出演。アン・アーチャーは久しぶりだなぁ。きれいだけど、さすがに歳をとった。

監督はマーク・ウォーターズ。この人、リンジー・ローハン主演の良作『フォーチュン・クッキー』『ミーン・ガールズ』のひとと知った。わりと信頼できる作り手じゃなかろうか。

主となるストーリーは、主人公がめちゃめちゃにした弟の結婚式の収拾をつける話と、かつて思いを寄せていた幼馴染の女性との関係修復という2本の柱に巧みにアレンジされ、並以上のロマンティック・コメディになっている。が、展開は、もう、そのまんま「クリスマス・キャロル」である。翻案ものの佳作としてはビル・マーレイの『3人のゴースト』と同等以上。この手のジャンルが好きな人にはお勧めしておきたい。

2010/10/31

キューティ・ブロンド3 (2009)

Legally Blondes ☆★ (@WOWOW録画)

これ、そもそも存在を知らなかった。リース・ウィザースプーンの人気を決定付け、続編やミュージカルまでも生んだ『キューティ・ブロンド』の安い姉妹編的ビデオ映画である。第1作、第2作と連続して放送されたので、念のため(笑)見た。

リース・ウィザースプーンが演じたキャラクターが卒業したプレップ・スクールを舞台に、英国から越してきた双子の従姉妹が騒動を巻き起こす学園コメディ。。。って、まるで原型を留めてないじゃん!

まあ、テストのカンニング疑惑で、双子の一人が放校処分になるかどうかを決める学園法廷がクライマックス・・・で、かろうじて原題にある"Legally"の面目が保たれている。。。のか?

主演ふたりの演技もお遊戯会だしなぁ。学園コメディとしてもぬるすぎて、お話しにならない。リース・ウィザースプーンも名前貸しくらいのつもりか製作者に名を連ねているが、ゲスト的な顔出しすらしないんだから、まあ、ねぇ。

2010/10/19

死を処方する男 ジャック・ケヴォーキアンの真実 (2010)

You Don't Know Jack ☆☆☆★(@WOWOW録画)

本作は、HBOが制作した"Made-for-TV Movie"である。

HBOというのは、米国の、いわゆるプレミアム・ケーブル局である。ベーシック・チャネルというのは、通常、基本料金でみられる多チャンネル・セットの中に入っているようなやつで、追加料金を払わなければ見られないのが、このHBOやらSHOWTIMEやらといったチャネル。日本で言えば、WOWOWみたいな感じか。

しかし「なんだ、映画じゃないじゃん。TV局製作の単発2時間ドラマのようなものだろ?」とバカにしているとびっくりする。なにせ、監督は(まあ、過去の名前になっちゃったけど)バリー・レヴィンソンだし、出演はアル・パチーノ、ジョン・グッドマン、スーザン・サランドンと、まさに劇場映画並の布陣なんだから。今年の春頃、NYC旅行中にこの作品のポスターが街中に貼られて大宣伝中だった。あまりに派手なので、はじめは劇場公開作品かと思ったくらいだ。主演アル・パチーノと脚本アダム・メイザーがエミー賞を獲得。

さて、それが WOWOW に登場。気になっていた作品なので、見逃さないように録画した。内容は、米国で130人以上を「安楽死」させ、当局や宗教関係者などから「死のドクター」と目の敵にされたジャック・ケヴォーキアンという男を主人公とし、彼が患者の自殺幇助を初めてから、殺人罪で投獄されるまでを淡々と描いていくものだ。

安楽死ってのは難しい。世界に冠たる自殺大国の日本ですら、末期患者の延命措置をやめるというだけでおおごとだし、医師が患者の「自殺」幇助をするなどといったら大変だ。変に保守的なキリスト教徒がはびこる米国ではもっと大変だ。なにせ、自殺そのものが罪であるし、「神」の領域に踏み込むあるまじき冒涜行為とみなされる。

アル・パチーノ演ずるジャック・ケヴォーキアンは淡々と患者に奉仕をする。自ら死を選ぶことに決めた終末期の患者や耐えがたい苦痛を抱える人々の求めに応じ、安楽死を迎えられるよう装置や薬品を使って手助けするのだが、同時に、マスコミを使って自らの主張を広く社会に訴えていく。これは選択の権利の問題なのだと。賛否入り乱れる中、これを苦々しく思う当局は、幾度となくケヴォーキアンの起訴を試みた挙句、自殺幇助の罪ではなく、殺人罪での立件に踏み切る。

力作である。まあ、ジャック・ケヴォーキアンという人物の主張の中で、もっとも常識的に、人道的に、理解をしやすいところを中心に描いており、人物評伝としてはフェアではないのかもしれない。が、論点を、末期患者が自分の意思で自分の尊厳死を選択する権利に絞るのであれば、本作が提起する内容の重さに変わりはない。視聴者(=観客)にいろいろなことを考えさせるドラマである。

協力者の一人としてスーザン・サランドン演ずるキャラクターが登場する。最後は重度のすい臓がんにより自ら主人公に安楽死を求めることになるという、なかなか印象深い人物なのだが、いかんせん、主人公を中心に淡々と描かれるドラマの中で、出たり消えたり、印象深い脇役ではあるが、あまり本筋に絡んでこないあたりがもったいない。また、もともと医療過誤を扱っていた有能だが野心満々の弁護士がいい味を出している。

2010/10/03

Gone Baby Gone (2007)

Gone Baby Gone (2007) 北米版BDにて

新作 "The Town" の評判が良いということで、ライブラリから買ったままになっていたベン・アフレック実質的な監督デビュー作 『Gone Baby Gone』を引っ張り出してきた。映画好きには『ミスティック・リバー』、『シャッター・アイランド』の原作者として知られているデニス・ルヘインの看板シリーズ・私立探偵パトリック&アンジーものの一編(「愛しきものはすべて去りゆく」)を、ベン・アフレックが自ら脚色し、監督。をを、そうだ。こやつ、そういや『グッド・ウィル・ハンティング』のアカデミー賞脚本家だったねぇ。

舞台はサウス・ボストン。少女誘拐事件が発生し、警察の必死の捜査が続くなか、少女の身内の人間が主人公のところにやってくる。捜索を引き受けることになった主人公らは、街で育った強みを活かして聞き込みをかけるなか、少女誘拐事件の裏には、ヤク中でロクでなしの少女の母親が巻き込まれた麻薬ディーラーとの金銭トラブルが関係していることが分かってくる。警察との密接な連携で麻薬ディーラーたちとの取り引きが実現するところまでこぎつけるが、事件は思いもよらない展開を見せていく。

出演は、私立探偵コンビにケイシー・アフレックとミシェル・モナハン。警察署長にモーガン・フリーマン、刑事コンビがエド・ハリスとジョン・アシュトン。ヤク中の母親にエイミー・ライアン(本作でアカデミー助演女優賞ノミネート)。

これは、日本未公開に憤りを感じるレベルの1級品。もう、幕開けから映画の持つ肌触りが凡百の作品と違うから。

ストーリー展開そのものの面白さは原作に負うものとしても、ボリュームのある原作の骨子を、ドラマの面白さとテーマの重たさを損なわずに、114分というコンパクトな尺にまとめ上げてみせたベン・アフレックの脚色と演出の力は認めなくてはなるまい。(同じ原作者の『ミスティック・リバー』・『シャッター・アイランド』が共に138分だ!) 無駄なく、そしてテンポ良く、しかしサウス・ボストンの地域と人々が醸し出す独特の雰囲気をロケーション撮影で活写したディテイルは豊穣だ。ここらあたりはボストン・エリアで育ち近隣に詳しいこと強みが十二分に活きている。

モーガン・フリーマンとエド・ハリスはその名に恥じない手抜きなしの名演。しかし、本作の驚きはブロードウェイ女優のエイミー・ライアン。舞台となるエリアの下層階級ダメ人間なりきりぶりは演技に見えないレベルで、いったいこの人は何者?と驚かされる。実際、NYはクイーンズ出身の彼女がオーディションのときに話した「ボストン訛り」に騙されたベン・アフレックが「ボストンはどこらあたりの出身なの?」と尋ねたとか、ロケの初日にはセキュリティ・ガードが彼女のことを寄り集まった地元の人間と間違えて現場から締め出したとか、そんな逸話が残るくらいだ。

観客自身に自分だったらどうするかと考えることを要求してくるエンディングで、嫌な後味が残るのは事実。だから観客と体調を選ぶ作品である。虐待、ネグレクト、実の親というだけで、親として相応しくない人間・環境のもとに囚われている子供に果たして希望は、救いはあるのだろうか?主人公の自分の生い立ちを踏まえた判断に納得ができるか?

ベン・アフレックの新作もまた、ボストンが舞台。今度のは北東のチャールズタウンだって。

2010/09/20

スプーフもの2本: 『ほぼ300』 『鉄板スポーツ伝説』

The Comebacks (2007) ★  (@WOWOW録画)
Meet the Spartans (2008) ☆(@WOWOW録画)

WOWOWで録画した未公開コメディ 『ほぼ300』、『鉄板スポーツ伝説』を見た。

コメディ映画の中に 「スプーフ」もの、と呼ばれる映画のジャンルがあって、米国ではそこそこの人気を保っている。コメディ映画といっても、いわゆるパロディ・ネタや細かい映像的ギャグを連ねていくタイプのもので、かつて、ZAZと呼ばれたザッカー兄弟・エイブラムズのトリオが得意とし、『裸の銃を持つ男』や『ホット・ショット』といったヒット作が出た.

今回の2本はその系譜に連なるもので、『ほぼ300(Meet the Spartans)』は、最近このジャンルの映画の量産体制に入っているジェイソン・フリードバーグとアーロン・セルツァーのコンビによるもの。『鉄板スポーツ伝説(The Comebacks)』は、邦題だけはフリードバーグ&セルツァー・コンビの『鉄板英雄伝説(Epic Movie)』を踏襲しているが、ロブ・シュナイダーのヒット作『The Animal』(脚本)、『The Hot Chick』(脚本・監督)のトム・ブレイディの監督作品である。

この手の映画では、ギャグの質(アイディア)と数(密度)が重要なのはいうまでもないが、それだけではダメで、映像で見せるセンスと、それをきっちり演じて見せられる役者も重要だし、(明確なストーリー・ラインの有無にかかわらず)構成や脚本もまた重要である。簡単そうに見えて、案外難しいのだ。

そんな当たり前のことを理解するうえでは、見ているのが苦痛になってくるほどに退屈で寒いこの2本の存在価値があるのかもしれない。まあね、なんというか、惨憺たるもので。フリードバーグ&セルツァー・コンビには何も期待できないし、トム・ブレイディもロブ・シュナイダー(とアダム・サンドラー率いるハッピー・マディソン組)がなければこの程度の作家だということだ。

これなら、下品で頭の悪いキーナン・アイボリー・ウェイアンズ(『Scary Movie』 1, 2)のほうが数段楽しいと思うが、それでも『Scary Movie 3』でZAZの懲りない生き残りであるデイヴィッド・ザッカー&パット・プロフト組に交代したら、それだけでいきなり映画がピリッと締まったものだ。(どうやら久しぶりに『Scary Movie 5』をやるつもりらしいね。)いや、結局のところ、ZAZの前にスプーフなく、ZAZのあとにもスプーフなし、という状況なのだろうか。いやはや。

2010/08/28

ブライダル・ウォーズ (2009)

Bride Wars (2009) ☆☆ (@WOWOW録画)

アン・ハサウェイとケイト・ハドソンが共演するコメディ。これ、未公開だったのね。原題 ”Bride Wars” なんで、”ブライダル” になっちゃうんだろうね。

小さいときから「プラザ」での結婚式を夢見てきた2人の親友が、手違いから同じ日にブッキングされてしまったことで関係がこじれ、互いの邪魔をしあうライバルに。際限なくブラックな意地悪合戦が続く中、2人は無事に結婚式を迎えることができるのか、関係を修復することができるのか、というお話し。

なんだかよくわかんないんですが。ひとつしかない予約スポットをめぐって2人が争う、というのならわかる。が、2人は同じ日の同じ時間に重なってしまったとはいえ、「6月某日のプラザ」を予約できたわけで、何を争わなくちゃならんのか、ということである。

互いが互いのメイド・オブ・オナーを務められない、とか、招待客に共通の友人が多いとかいうのは、まあわかる。しかし、ブライド・メイトを務めてあげたい(もらいたい)相手と、ここまで泥沼のケンカをするかどうか。ドタバタものとはいえ、日サロで焦がすとか、ブロンドを青く染めて髪の毛抜けちゃうとか、ちょっとえげつなさ過ぎて笑えない。互いを思えば、Wウェディング一択だろー、と思うわけだが、結婚式くらいはバラバラでやりたい、と、設定を成立させるための「台詞」で即刻否定されるのだ。

アン・ハサウェイもケイト・ハドソンも好きなのでとりあえず見ていられるけれど、この映画、2人が親友という設定が失敗だと思う。

例えばさ、「知り合いではないが実は似たもの同士の2人が、ひとつしかない予約スポットを巡って争うが、その過程で親友になってWウェディング・ゴールイン!」とかいうのがオーソドックスなんじゃないのかね。あるいは、ちょっとひねって「実は2人が親友どころが互いに恋愛感情を持っていて、ケンカの理由は相手が男と結婚すること自体が許せないという深層心理の発露で、最後は婚約者を捨てて女同士でゴールイン!」とかね。

まあ、おんなじネタでももっと面白くなりそうな脚本家組合ストライキ直前に滑り込みで完成された脚本だけに、練りこみが足りなかったとしかいいようがない。残念。ゲイリー・ウィニック監督。20世紀FOXがインド市場向けヒンディー語リメイクを製作中とか。←それ、見てみたいような気がする。唄ったり、踊ったりするんだよね???

2010/08/15

チャーリー・バートレットの男子トイレ相談室(2008)

Charlie Bartlett (2008) ☆☆☆★(@WOWOW録画)

WOWOWの放送を録画して、『チャーリーバットレットの男子トイレ相談室(2008)』 を見た。日本でも劇場公開されていたらしいのだが、渋谷のなんとかとか、シネパトスとか。うーん、いつのまにか、そういった場所、そういった規模でしか公開されない作品にはすっかり疎くなってしまった。昔は東銀座まで『ズーランダー』を追いかけていったりしたもんなんですが。

ジョン・ポール、などという、どっかの法王ですか?っていうような名前の監督が、『スター・トレック』の新チェコフであり『ターミネーター4』の若いカイル・リースであるところのアントン・イェルチン主演で撮った、一風変わったオリジナリティあふれるハイスクールもの、これがなかなか佳作。

お金持ちのお坊ちゃんである主人公チャーリー・バートレットは、周囲からの「人気」を得ることに至上の価値を見出している。偽造免許証作りで人気を集めるが、それで名門プレップスクールを放校処分になってしまう。転入した公立学校は、まるで彼に不釣合いな場所に見えたが、あるとき、自分に処方された抗精神薬でハイになったことから、抗精神薬の転売&悩みごと相談の真似事を始め、カリスマ的な人気を確立してしまう。校長の娘と仲良くなるところまでは良かったが、抗精神剤で自殺を図るクラスメイトが現れて問題化、さらに、学校内に設置された監視カメラに反発を強める生徒らの首謀格に祭り上げられて、ひと悶着が起こる。

人気を得るより大事なことがあるだろう、と問われ、具体的に何があるんだ?と問い返す主人公。(米国の)高校生活で、周囲の注目を集めることの切実的な価値は、周囲から阻害された孤独の中で自殺を図ろうとする生徒との対比でうまく描かれていて、ティーンの現実と誠実に向き合おうとするジョン・ヒューズ以来の良い伝統に則った作品になっている。そんな文脈で言えば、ある種の悪知恵で大人を出し抜き、小気味良く物事を運んでみんなの人気者というあたりは、『フェリスはある朝、突然に』の楽しさに通じている。アントン・イェルチンの童顔キャラは、やっぱりマシュー・ブロデリック風味だと思う。

しかし、この主人公はフェリスほどに徹底的に楽天的で陽性のキャラクターではない。父親不在、精神的におかしい母親という状況で、彼自身が背負い込んだ問題、生きる困難さを抱えている。また、この映画が描く「大人」は、「若者を理解できない大人という記号」ではない。本作で「大人」を代表するのはロバート・ダウニーJr.演ずる校長だが、ある意味、主人公と対等の人間として描かれ、主人公に大切な教訓を教えると同時に、醜態も晒す。このあたりの視点の置き方は、ウェス・アンダーソンの『天才マックスの世界』と響きあう。本作で、終盤に向けて「演劇」という要素を持ち込んできた脚本は、「マックス」を意識しているように思えるのだがどうだろう。

その、「演劇」というのが、劇中、問題視されたり、いや、高校生はこう言うのこそを見たいんだ、と主張したりするほどのものに見えないのがご愛嬌。ここできちんと盛り上げられたら、文句なく☆☆☆☆級だったんだけどな。