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2011/09/21

ザ・レイプ 欲望の報酬(2010)

Mes Cheres Etudes (Student Services) (☆☆☆)@WOWOW録画

まあ、なんだか酷い邦題なんだけど。フランスのTV映画、らしい。

3年ほど前に、フランスの学生の経済的な困窮と、それが原因でネットで媒介される学生売春の広がりが話題となったことがある。フランスの大学は学費が殆どかからないなど恵まれたイメージがあるが、親からの十分な援助が得られない、あるいは、大人になったら経済的に自立するのがあたりまえだという考え方が根強く、同時に、労働市場の慣行から学生や若者の職業機会が限られていることなどが背景にあるんだそうだ。それで、生活費を稼ぐため、手軽にかせぐことができる売春に深入りした経験談などが相次いで出版されたことで、ある種、社会問題的な注目を集めたらしい。

これは、そうした出版物のなかで語られたある学生の経験談を脚色・監督したもののようだ。題材が題材なので全編いろいろと「エロ」はあるんだけど、女性監督(エマニュエル・ベルコ)の作品であることも手伝って、社会的な問題提起を隠し味にした「貧乏女子学生の青春映画」になっている。

題材的には、「大学をきっちり卒業したい貧乏学生が生活費に困って売春する」話なので、「小学生が親に強制されて家族を養うために売春」させられていたり、「中高生が遊ぶ金欲しさに売春」しているこの国の現在を思えばなんら驚きも何もなく、まあ、70年代だったら成立したかもね、という感じだろうか。

でも、売春が違法ではないフランスでこういう話がセンセーショナルになるというのは、やはり、社会階層意識みたいなものが強固に残っているためなのかな、と思ってみたりする。

それはともかく、「貧乏女子学生の青春映画」としては面白い。最初は恐る恐る、しかし必要に迫られて仕事に手を染めた素人そのものの主人公が、身を守る術もなく危ない橋を渡りながら、しかし簡単に手に入る大金で感覚が麻痺していく心理をうまく描き出していて面白い。

それに、ラスト。学位をとって卒業し、仕事を得てもなお、十分な収入を得ることが出来ずに過去の稼業を続けていることを示唆して、個人の特異な体験談ではなく、背後にある構造的な問題を浮かび上がらせているあたりが、作り手の「ただのエロ映画では終わらせない」意気込みを感じさせて、印象に残った。

もう少しましな扱いを受けてしかるべき作品だとは思うんだけどな。これ。

2010/10/19

死を処方する男 ジャック・ケヴォーキアンの真実 (2010)

You Don't Know Jack ☆☆☆★(@WOWOW録画)

本作は、HBOが制作した"Made-for-TV Movie"である。

HBOというのは、米国の、いわゆるプレミアム・ケーブル局である。ベーシック・チャネルというのは、通常、基本料金でみられる多チャンネル・セットの中に入っているようなやつで、追加料金を払わなければ見られないのが、このHBOやらSHOWTIMEやらといったチャネル。日本で言えば、WOWOWみたいな感じか。

しかし「なんだ、映画じゃないじゃん。TV局製作の単発2時間ドラマのようなものだろ?」とバカにしているとびっくりする。なにせ、監督は(まあ、過去の名前になっちゃったけど)バリー・レヴィンソンだし、出演はアル・パチーノ、ジョン・グッドマン、スーザン・サランドンと、まさに劇場映画並の布陣なんだから。今年の春頃、NYC旅行中にこの作品のポスターが街中に貼られて大宣伝中だった。あまりに派手なので、はじめは劇場公開作品かと思ったくらいだ。主演アル・パチーノと脚本アダム・メイザーがエミー賞を獲得。

さて、それが WOWOW に登場。気になっていた作品なので、見逃さないように録画した。内容は、米国で130人以上を「安楽死」させ、当局や宗教関係者などから「死のドクター」と目の敵にされたジャック・ケヴォーキアンという男を主人公とし、彼が患者の自殺幇助を初めてから、殺人罪で投獄されるまでを淡々と描いていくものだ。

安楽死ってのは難しい。世界に冠たる自殺大国の日本ですら、末期患者の延命措置をやめるというだけでおおごとだし、医師が患者の「自殺」幇助をするなどといったら大変だ。変に保守的なキリスト教徒がはびこる米国ではもっと大変だ。なにせ、自殺そのものが罪であるし、「神」の領域に踏み込むあるまじき冒涜行為とみなされる。

アル・パチーノ演ずるジャック・ケヴォーキアンは淡々と患者に奉仕をする。自ら死を選ぶことに決めた終末期の患者や耐えがたい苦痛を抱える人々の求めに応じ、安楽死を迎えられるよう装置や薬品を使って手助けするのだが、同時に、マスコミを使って自らの主張を広く社会に訴えていく。これは選択の権利の問題なのだと。賛否入り乱れる中、これを苦々しく思う当局は、幾度となくケヴォーキアンの起訴を試みた挙句、自殺幇助の罪ではなく、殺人罪での立件に踏み切る。

力作である。まあ、ジャック・ケヴォーキアンという人物の主張の中で、もっとも常識的に、人道的に、理解をしやすいところを中心に描いており、人物評伝としてはフェアではないのかもしれない。が、論点を、末期患者が自分の意思で自分の尊厳死を選択する権利に絞るのであれば、本作が提起する内容の重さに変わりはない。視聴者(=観客)にいろいろなことを考えさせるドラマである。

協力者の一人としてスーザン・サランドン演ずるキャラクターが登場する。最後は重度のすい臓がんにより自ら主人公に安楽死を求めることになるという、なかなか印象深い人物なのだが、いかんせん、主人公を中心に淡々と描かれるドラマの中で、出たり消えたり、印象深い脇役ではあるが、あまり本筋に絡んでこないあたりがもったいない。また、もともと医療過誤を扱っていた有能だが野心満々の弁護士がいい味を出している。