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2011/11/28

最強絶叫ダンス計画(2009)

Dance Flick (★)

相も変わらず WOWOW録画で未公開映画の追いかけだ。

原題 Dance Flick、「ダンスもの」というタイトルの、ダンスもの映画のパロディ映画。邦題は、これが "Scary Movie" ウェイアンズ一派の作品であることを示す記号以上の意味はないな。(だって 絶叫=”スクリーム" 計画=ブレアウィッチ "プロジェクト"だし)・・・というか、他の作家のパロディ映画にも節操無く似た邦題をつけてるから、「ナンセンスなスケッチを並べたくだらねぇパロディ映画」の記号ということか。

しかし、このジャンルは死んだね。今世紀に入ってからコンスタントに作品を出しているのはウェイアンズ一派とフリードバーグ&セルツァー組なんだけど、両方とも全くもって面白くないんだもん。ウェイアンズ一派で始まった"Scary Movie"シリーズが、途中で何故かザッカー/プロフト組に先祖返りして「まともに面白い」映画になったことではからずも実証されたように、ジャンルの創始者たる"ZAZ"以降、それを越える才能が出てきていないってことだ。

で、本作。土台になっているのは、可愛気のない顔つきで日本では全く人気のないジュリア・スタイルズ主演の 『セイブ・ザ・ラスト・ダンス (2001)』で、バレリーナを夢見る白人の女の子が、母親の突然の死によって引越しを余儀なくされ、ヒップホップ・ダンスの得意な黒人の恋人と付き合うようになっていく流れに沿って、様々なナンセンス・ギャグやパロディが串刺しになっているというわけだ。

Dance Flick とはいうけれど、「ダンスもの」映画への愛とか尊敬がなさすぎるのがつまらない第一の理由なんだろうな。だいたい、ダンスものをネタにしたギャグも少ないんじゃないか。振付もダンスも酷いもので見ていられない。パロディであればこそ、そこは真剣にくだらないことをやるべきなんじゃないか。それと、ギャグが面白くないだけならともかく、不愉快なのもある。レイ・チャールズの扱いや、ゲイのネタ。いや、ほら、ダンスものなんだからゲイがネタになってもいいよ。"Fame" が "Gay" になるダンス・シークエンスは作品中でも数少ない「面白くなったかも知れない」シーンの一つだとは思うよ。でも、作り手の意識の低さが丸見えだから、笑えるより前に不愉快になるんだ。

ちなみに監督のダミアン・ダンテ・ウェイアンズは、我々のよく知るところのウェイアンズ兄弟の甥、本作の主演デイモン・ウェイアンズJr は名前の通りデイモン・ウェイアンズの息子。け、いつのまにか世代交代が起こってんでやんの。

2011/11/21

アラフォー女子のベイビー•プラン(2010)

The Switch (☆☆☆)

映画では決定打に恵まれないジェニファー・アニストン主演の、ロマンティック・コメディ、じゃないよな、これ。実態は、ジェイソン・ベイトマン主演の変則的な「片思い」映画である。コメディだけど、笑えない話だし、ロマンスだけど、ぜんぜんロマンティックじゃない。

友人以上の好意を抱いていた女性が、年齢を理由にしてドナーから精子の提供を受けて人工妊娠で子供を作ると決意してしまう。施術により妊娠に成功した女性は出産と子育てを理由に田舎に帰ってしまう。7年後、子供を連れてNYに戻ってきた女性と「友人」として再開した主人公は、「友人」として彼女の子供と接するうち、内向的でややこしい性格の子供が、ドナーとなった男に似ていないばかりでなく、むしろ、自分に似ていることに気づく。そういえば、記憶があやふやなんだが、施術の前に、酔った勢いでドナーの精子と自分の精子を入れ替え(=The Switch, 原題)たんだっけ。

本質的には、お互いに憎からず思っていながら、互いの関係を「友人」と定義したがためにややこしい関係に陥る男女が、大きな回り道をしてあるべきところに収まるという話ではある。そこに「人工授精で作った子供」と、「裏の事情」、裏の事情を知らない「ドナー」との関係に深入りしていく女、いまさら裏の事情を話すわけにいかなくなって窮地に陥る男、と、映画ならではの複雑な状況を作り出し、スムーズに流れる話にまとめあげた脚本が秀逸。

人工授精のプロセスで、ドナーの精子を第三者が勝手に入れ替えるなどという無理のある要素を含む設定も、「大きな決断である施術に当たって、勢いも必要だと知人・友人を招いてパーティを開く」、「パーティには医者も招き、そのまま自宅で施術」、「誰のものか分からない凍結精子は嫌なので、自ら募って選んだドナーをパーティに同席させ、直前に新鮮な精子を採取」などの、大嘘・大技を自然な流れの中で連発する力技には脱帽する。しかも、そこまでやってのけて映画の半分、というか、前段に過ぎないのだから大変だよ、これは。アラン・ローブ(『ウォール・ストリート』『ラスベガスをぶっつぶせ』)って、なかなかやるじゃないか。

ジェニファー・アニストンは、いかにもこういう身勝手なことを言い出しかねない「都会で働く自立した女性」像を、嫌な女にみせずに演じていて適役。実質的な主人公を演じたジェイソン・ベイトマンがなかなかうまい。いつも目立たない脇役ポジションで、名前と顔がつながらなかったのだけど、この映画で覚えたぞ。実は子役上がりの大ベテランなんだね。一見爽やかだが、あんまり中身のなさそうな「ドナー」をパトリック・ウィルソン。その他、ジュリエット・ルイス、ジェフ・ゴールドブラム がちょっとした役で出ている。監督はジョシュ・ゴードンとウィル・スペックのコンビ(『俺たちフィギュアスケーター』)。こういう映画が撮れるんだね。びっくり。

2011/11/19

妖精ファイター(2010)

Tooth Fairy (☆☆☆)

ロック様ことドゥウェイン・ジョンソンは、映画界への転身を一番うまくやってのけたレスラーといっても過言じゃあるまい。とりたてて演技がうまいわけではないが、立派な体格で存在感は抜群だし、子犬のような愛嬌があったりする。出演する映画の幅も、かつてのシュワルツェネッガーがそうだったように、アクションとコメディの両方にまたがっていて、なかなか器用なものである。まあ、日本のマーケットではどちらの路線も冷遇されているけどさ。

で、この作品は、ファミリー向けのコメディのほう。『妖精ファイター』、原題は「歯の妖精」。ファイターって・・・・何。

抜けた乳歯を枕の下に置いておくと、「歯の妖精」さんがやってきてコインと歯を交換してくれる、という西洋の言い伝えがありますな。米国ではコイン=クォーター(25セント)が相場だと思っていたら、映画の中では1ドル紙幣だっていうんだから乳歯の値段も高くなったものだ。

ドゥウェイン・ジョンソンが演じるのは、盛りを過ぎたアイスホッケー選手である。この男が付き合っているシングルマザー(アシュレイ・ジャッド)の連れ子に、歯の妖精なんていないと現実を教えようとしたため、妖精の世界に召喚されて「夢を壊そうとした罪」を問われ、1週間のあいだ「歯の妖精」の仕事につくことを強要されるという話なんだな。

この主人公は、ラフなプレイで知られていて、試合中に相手選手の前歯を折ったりするものだから、皮肉なことに「Tooth Fairy」などというニックネームが付いている。そのイカツイ体に童話風の羽が生えてきて本当の「歯の妖精」にさせられてしまい、悪戦苦闘するというのがメインプロット。あの「ロック様」がメルヘンな衣装に身を包み、作り物の羽がピロピロ生えている絵面はなかなかミスマッチ、良い意味で恥ずかしい。

妖精の世界を取り仕切るボスは、なんと、(声だけを除けば)『プリティ・プリンセス2』以来、6年ぶりの出演となるジュリー・アンドリュースだ。1935年生まれだというから、それなりのお年になっているんだが、とても優雅で美しく、貫禄もあり、コメディのセンスもあるんだからスゴい。妖精が仕事をするために必要なガジェットを用意してくれる、いってみれば「007におけるQ」の役周りがビリー・クリスタル。出演時間は短いのに、しっかり笑いをとっていく軽妙な演技と話芸はさすがだ。

単にドタバタに終始するだけでなく、現実的でシニカルな主人公と、恋人の連れ子たち、妖精界の「ケースワーカー」として主人公に付きそう羽のない妖精との関係を積み上げていく中で、なんと、主人公が過去の挫折から再起する物語へと収斂させていく脚本がなかなか秀逸。ローウェル・ガンツとババルー・マンデルっていえば、90年代にビリー・クリスタルやハロルド・ライミス、ロブ・ライナーらとコメディの佳作をものにした脚本家コンビじゃないか。監督はTVがメインのマイケル・レンベック。

2011/11/16

お願い!プレイメイト(2009)

Miss March (☆)@WOWOW録画

主演しているザック・クレッガーと トレヴァー・ムーアが20世紀フォックスからカネを引き出して作った(脚本・監督)は薄笑セックスコメディ。

高校時代に清いお付き合いをしていた男が、プロムの夜のアクシデントで昏睡状態となってしまう。4年後に目がさめてみると愛する清純な彼女はなんと"ミス3月(原題)"としてプレイボーイ誌のカバーを飾っており、赤裸々なセックス体験を語っているではないか。子供の頃からの悪友に引きずられ、プレイボーイ帝国を築いたヒュー・ヘフナー邸で行われるパーティに潜入するために、サウスキャロライナからLAまでの珍道中が始まる、という話。

なんか、本国で公開した時に当たってた記憶があったので見てみた。が、ひでぇーなー、これ。

下世話なコメディは珍しくもないけど、キャラクターに爪の先ほども共感できないんだから困る。特に、主人公の悪友のキャラクターが最悪。ネジの切れたセックスキチガイでもいいよ。でも、『アメリカン・パイ』のスティッフラーだって、ここまで酷いキャラクターじゃなかった。ただの非常識男、トラブルメイカーという枠を超えて、悪人なんだもの。いくら非常時だからって、彼女の顔をフォークで刺して逃げるか?車から路上に放り出された女をそのまま放置するか?昏睡状態の友人をバットで殴るか?これで笑えというほうが無理だよ。

ロバート・ワグナーをヒュー・ヘフナー役にキャスティングして撮影していたのだが、ご本人がラフカットを気に入って出演を快諾したがゆえ、ヒュー・ヘフナー登場シーンを本人出演で全部撮り直したんだそうだ。おかげでロバート・ワグナー(『オースティン・パワーズ』のナンバー・ツーな)は、この救いがたい駄作に顔が残らずに済んだわけだ。

2011/11/09

デート&ナイト(2010)

Date Night (☆☆☆)@WOWOW録画

コメディ好きにはお馴染み、『40歳の童貞男』のスティーヴ・カレルと、「サタデー・ナイト・ライヴ」のヘッドライターも務め、サラ・ペイリンのモノマネでも話題を呼んだ才女、ティナ・フェイが共演するコメディ映画。原題は"Date Night"だけど、邦題はトム・クルーズ主演作にひっかけて、なぜか真ん中に「&」が入っちまうんだな。

2人が演じるのはニュー・ジャージー暮らしの子持ち・共働きの夫婦。仕事に子育てに忙しい毎日だが、ときおりベビーシッターを頼んで夫婦二人の時間("Date Night")を楽しむようにしている。といっても、普段は近所のファミレスで食事したり映画を見に行ったりする程度のことなのだが、ある日、ちょっとした思いつきからマンハッタンで超人気の高級レストランに出かけて特別な夜を楽しもうとしたことから、トラブルに巻き込まれ、とんでもない一夜を過ごすことになるというお話し。もちろん、その経験を通じて二人の絆が一層深まるという定番のストーリー。

気楽に見られて、気持よく笑える良作。主演のこの二人は、普通にしていたら「普通の人」に見えるが、やはり芸達者。「普通の人が、普通でない状況におかれて、普通じゃない行動をとるが、本人達にそれほどだいそれたことをしているという自覚があるわけでもない」という一連の流れに説得力を与え、観客から好感され、過度なコメディ演技に陥ることなくきっちり笑いをとるのって、案外難しいものだよね。二人の相性も抜群で、もはや小手先の「演出」を必要としないレベル。これ一本じゃもったいない、このコンビで何本かやってほしいと思う。

それと、この映画、配役が映画ファン的には豪華。マーク・ウォルバーグ、ジェームズ・フランコ、ミラ・クニス、マーク・ラファロなどが登場。いつも上半身裸のマーク・ウォルバーグが画的に面白すぎる。

監督はショーン・レヴィ。スティーヴ・マーティン主演の『12人のパパ』『ピンク・パンサー』、ベン・スティラー主演の『ナイト・ミュージアム』シリーズ、そして待機中の『リアル・スティール』でコメディじゃないジャンルへも挑戦している。一応、スマッシュ・ヒットが続き、手堅く「計算」できる監督なんだろうが、本作を含めて、あんまり監督の手腕で映画が成功したとまでは思えない作品ばっかり並んでいるんだよなぁ。

2011/11/03

迷ディーラー!? ピンチの後にチャンスなし(2009)

The Goods: Live Hard, Sell Hard (☆☆)@WOWOW録画

進退極まった中古車ディーラーの助っ人として雇われたプロのセールス・チームが先頭に立って、独立記念日の週末にあの手この手で在庫車を売りさばこうとするドタバタ・コメディだ。

作り手のインスピレーションは、ロバート・ゼメキスのデビュー作である中古車屋ドタバタ・コメディ『ユーズド・カー』と、デイヴィッド・マメット原作のセールスマンもの『摩天楼を夢みて(グレンギャリー・グレンロス)』にあるという。ジェレミー・ピヴェン主演(←めずらしい)、ヴィング・レームス、ジェームズ・ブローリン、ケン・チョンなど。製作にウィル・フェレルが絡んでいるのだが、映画のノリはそちらな感じで、かつ、カメオ出演もしている。

米国における「中古車のセールスマン」は、信用出来ない人間の代名詞のひとつ。口八丁手八丁で「レモン(欠陥車)」を売りつけ、売った者勝ちというイメージだな。そんな中古車ビジネスを舞台にしてはいるが、この映画、基本的に中古車セールスマンを揶揄したり貶めるものではない。基本的フォーマットは、万年負け組が奮起して結果を残すという、スポーツ物などに典型的なパターンの話であり、それぞれの立場でそれぞれに頑張っている、少し変わった人間たちへの賛歌である。そこまですっきり爽やかで気持ちよい映画ではないけどな。

笑いのネタも、半分面白く、半分不発。コメディ好きの自分でも、「やっすいマチネー料金で見ている分には許容できる程度」の映画だなと思うんだから、出演者も地味なコメディでそういう出来映えであれば未公開街道まっしぐらも致し方ないか。

ところで、主人公が、現場の士気を高めるために朝のミーティングで「パールハーバー」を例えに出したら、感情が昂ったセールスマンたちが(『ハング・オーバー!』や『トランスフォーマー3』で有名になったアジア系のコメディアン)ケン・チョンをタコ殴りにするというギャグがあった。ケン・チョンの役は日系ですらない、というオチがつく。これ、ちょっと嫌だなぁ、笑えないなぁ、と思って見ていたら、案の定、「差別的」だと日系人のコミュニティが抗議したらしい。

コメディのネタにケチをつけたり、あんまり表現を自粛したりするのは無粋だと思っているのだが、やってよい表現とダメな表現の境界線はなかなか難しい問題だ。

上記についても、毎朝毎朝、「ホロコースト」を例えに出してドイツ系をボコスコにし、「アラモ」を例えに出してネイティブ・アメリカンをズタボロにし、「911」でアラブ系を、「KKK」ネタで有色人種が白人全員を叩きのめし、と反復したうえで、「21世紀になっても進歩のない連中だな」くらいの批評的な台詞でオチをまとめれば、アリだったかもしれない。

要は、作り手が、そこで行われている行為を間違ったことであると認識していることを明確に示しているかどうかなんじゃないか。もちろん、ギャグにしているということは、それが「政治的に」間違っているという認識は示しているのに等しい(ので、あまり目くじらをたてたくない)が、本音ではOKと思っているようにも受け取れるから気分が良くないし、反発も出てくるのだな。あと、特定の人種なり何なりだけをターゲットにするのでなく、様々な事象の中で相対化されているほうが批評性につながると思うんだがどうだろうか。"Avenue Q" の歌詞じゃないが、「誰もが少しだけレイシスト♪」なノリになっちゃえば、不謹慎とはいえ、差別的だとは感じないものだ。

2011/09/21

ザ・レイプ 欲望の報酬(2010)

Mes Cheres Etudes (Student Services) (☆☆☆)@WOWOW録画

まあ、なんだか酷い邦題なんだけど。フランスのTV映画、らしい。

3年ほど前に、フランスの学生の経済的な困窮と、それが原因でネットで媒介される学生売春の広がりが話題となったことがある。フランスの大学は学費が殆どかからないなど恵まれたイメージがあるが、親からの十分な援助が得られない、あるいは、大人になったら経済的に自立するのがあたりまえだという考え方が根強く、同時に、労働市場の慣行から学生や若者の職業機会が限られていることなどが背景にあるんだそうだ。それで、生活費を稼ぐため、手軽にかせぐことができる売春に深入りした経験談などが相次いで出版されたことで、ある種、社会問題的な注目を集めたらしい。

これは、そうした出版物のなかで語られたある学生の経験談を脚色・監督したもののようだ。題材が題材なので全編いろいろと「エロ」はあるんだけど、女性監督(エマニュエル・ベルコ)の作品であることも手伝って、社会的な問題提起を隠し味にした「貧乏女子学生の青春映画」になっている。

題材的には、「大学をきっちり卒業したい貧乏学生が生活費に困って売春する」話なので、「小学生が親に強制されて家族を養うために売春」させられていたり、「中高生が遊ぶ金欲しさに売春」しているこの国の現在を思えばなんら驚きも何もなく、まあ、70年代だったら成立したかもね、という感じだろうか。

でも、売春が違法ではないフランスでこういう話がセンセーショナルになるというのは、やはり、社会階層意識みたいなものが強固に残っているためなのかな、と思ってみたりする。

それはともかく、「貧乏女子学生の青春映画」としては面白い。最初は恐る恐る、しかし必要に迫られて仕事に手を染めた素人そのものの主人公が、身を守る術もなく危ない橋を渡りながら、しかし簡単に手に入る大金で感覚が麻痺していく心理をうまく描き出していて面白い。

それに、ラスト。学位をとって卒業し、仕事を得てもなお、十分な収入を得ることが出来ずに過去の稼業を続けていることを示唆して、個人の特異な体験談ではなく、背後にある構造的な問題を浮かび上がらせているあたりが、作り手の「ただのエロ映画では終わらせない」意気込みを感じさせて、印象に残った。

もう少しましな扱いを受けてしかるべき作品だとは思うんだけどな。これ。

2011/09/20

恋する宇宙(2009)

Adam (☆☆☆)@WOWOW録画

あー、何を期待したら良いのか分からない、意味不明な邦題ですが。

原題はAdam、主人公の男の名前ですね。で、この男、あきらかに日常生活に難儀を生じるレベルのアスペルガー症候群なわけ。彼を庇護してきた父親を失い、折からの不況で(父親の後ろ盾によって就くことができた)職も失ってしまう。この男が、同じ建物に越してきた代用教員をしている女性と出会い、恋をし、次第に交流を深めていく。これは、そういう真面目で苦目なロマンティック・コメディ(だけど、コメディのほうにはあまり重心がない)なのね。ちなみに製作はお馴染み"フォックス・サーチライト・ピクチャーズ"だから、お気楽なデート・ムービーではないことは、自明。

この映画は、わりと面白い。互いに好意を抱いていても、その距離を縮めるため、互いに乗り越えなくてはならない大きな障壁を抱えたカップルの話という意味では、普遍的な物語でもある。また、夢物語のように甘い話にはなっていない。乗り越えられない一線もあるのだ。でも、つらい現実を追認して終わるような冷たい映画ではない。ほんの少しだが、将来への希望を垣間みせて幕を閉じる脚本はとても後味がいい。

男の発達障害をどのくらい正確に描いているかはわからない。が、この映画の主人公は"「王様は裸だ」と声を上げてしまうある種の純粋さ(とKYさ)を持ち合わせた子供"と重ねあわせて描かれている。周囲に庇護されてきたがゆえの、精神的に未成熟なところを持った青年だ。女性は主人公のそんなところに惹かれるが、それゆえに素直なハッピーエンドには向かうことができない。

で、男が宇宙、天体観察等にも興味を持っているエンジニアで、自室がプラネタリウム状態になっていることが・・・「宇宙」?なんだよね。きっと。

2011/09/18

恋する履歴書(2009)

Post Grad (☆☆★)@WOWOW録画

これ、未公開映画かな。WOWOWの放送を録画してみた、原題 "Post Grad" 、卒業後、といったところか。

大学を卒業した主人公の女の子が希望する出版会社に就職できず、あちこちに応募するもうまくいかず、同級生で東海岸のロースクールに行くか迷っている恋人ともしっくりいかず、隣に住んでいるブラジル人CMディレクターといちゃついてみたりしながら、自分が大切に思うものは何かに気がついていく話。

邦題だと、溌剌とした女の子を主人公にして、就職活動頑張ります!というのか、「就職戦線異状なし」+ロマンティック・コメディみたいな印象をうけるが、恋に仕事(就職活動)に頑張る女の子の話ではないんだな。

終盤、せっかく手に入れたチャンスを平気でふいにするし、この子がどういうキャリアを築いていくつもりなのか、さっぱり謎。そのあたりを何も描かないまま「ハッピーエンド」にしてしまうという意味で、そもそも「女の子とキャリア」をテーマにした映画ではないっちゅうことだろう。ただ、もともとそういう映画ではないとしても、ちょっとそのあたりは釈然としない。女性監督なんだから、なおのこと、違った描き方があったんじゃないかと思う。

主役を演じるアレクシス・ブリーデルという女優さんは可愛い。"The Sisterfood ofthe Travelling Pants" (邦題忘れた)シリーズが一番代表作っぽいようだけど、それを見てないので主演扱いで見るのは始めてだ。彼女の家族が描かれるウェートが高いのだが、少しユニークで愛すべき父親役としてマイケル・キートンが出演していて、なかなか良い味を出している。

監督のヴィッキー・ジェンソンって、アニメ畑の人で、ドリームワークスの『シュレック』『シャーク・テイル』で監督としてクレジットされているんだね。実写は始めてなんじゃないの?

2011/09/12

スプライス(2009)

Splice (☆☆☆)@ WOWOW録画

劇場公開時に見損なっていたので、WOWOWでの放送を録画してみた。監督には、『CUBE』で一世を風靡したヴィンチェンゾ・ナタリ。主演にサラ・ポーリーとエイドリアン・ブロディ。ゼメキスとシルバーが立ち上げたホラー映画レーベル「ダークキャスル」の名があるが、完成品をみたダークキャッスルが配給権を買ったんだとさ。なんだ、そういう経緯だったのか。

遺伝子操作実験をしている科学者たちが使命感と科学的興味にかられ、実験で創りだした生物に人間のDNAを埋め込んだことから始まる話である。あまり事前の情報を持っていなかったので、最初に登場するチンコのような薄気味悪い生き物に知恵でもついて、密室となった研究設備内でこのクリーチャーと死闘を繰り広げる『エイリアン』みたいな話を想像していた。

しかし、みるみる成長した「生き物」は、コミュニケーション可能な高等知能をもつ「人間の亜種」に育っていく。人の手で作られた、人ではないモンスター。これは「フランケンシュタインの怪物」のバリエーションだったんだね。

しかも、この映画は、更に先にいく。この生き物に服着せて、化粧もさせて、誘惑されたからってセックスしちゃったり、反対にレイプされちゃったり、もうタイヘンな展開になるんですから。ええ。

だいたい、物語的には人が作った新種の生き物なのかもしれないが、どこぞの美人女優さんが特殊メイクとCGI加工で演じるこの「生き物」ってば、いってみりゃ、奇形人間なわけですよ。哀れなことに、この嫌がる奇形人間を監禁し、縛り付け、服ぬがせ、尻尾を切り落とし・・・って、ああ、それだけで、なんともヤバイ感じが漂ってくる。そこがこの映画の面白さだ。

映像的にグロいのは最初に登場したチンコみたいな生き物が互いに角出して殺し合い、血塗れになるシーンくらい。そこはストーリー的には意味のある伏線になっているけれど、描写の仕方はあからさまな観客へのサービスだといえよう。映画の基調になっているのは、人のようでいて人ではない生き物の生理的な薄気味悪さと、人間がそういう生き物を創りだして自分の自由にコントロールしようとすることに対する倫理的、宗教的な問題提起。割と面白かった。この映画の終わり方からすると、、、『ザ・フライII 二世誕生』みたいな続編ができちゃったりしてな。

2011/08/26

屋根裏のエイリアン(2009)

Alien in the Attic(☆☆☆)@WOWOW録画

WOWOWの録画でみた、国内劇場未公開作品。親戚と一緒に避暑地にやってきた少年少女が、地球侵略にやってきた少々間抜けな宇宙人の先遣隊と遭遇し、大人の手を借りずに撃退するためにドタバタのバトルを繰り広げる。

子供たちを主人公にした、ファミリー向け(というか子供向け)のアドベンチャーものというジャンルは、おそらくそれなりに作られているのだろうけれども、なかなか日本の劇場では公開されない今日この頃。名の知れたスターもいなければ、ディズニーとかの冠もないのだから、まあ、そういう扱いもむべなるかな、である。

だけど、これ、そこそこ面白いんじゃないのかね。子供向きだと割り切った甘い作りではあるけれど、86分、お約束事も含めてきっちり楽しませる良心的な作りだと思う。ひまつぶしには悪くないよ。

地球侵略とかなんとかいっているのに片田舎の別荘にやってきて子供たちとバトルを繰り広げる小型で間抜けな宇宙人は、どこか「ケロロ軍曹」かなんかに触発されたんじゃないかと思わせるものがある。また、地球存亡の一大事(本当か?)だというのに、大人はあてに出来なくて、子供たちだけで何事もなかったかのように対処しなければならないという筋立てや、その闘いが屋上から地下室まで、一件の家の中だけで完結するという発想は、藤子F的な裏庭SF風だったりもする。しまいにゃ、ビッグライトで巨大化したりするしな。うん。

尺が短いぶんだけ、親子や家族の絆、みたいな米国映画お得意のお説教が少なめで、大人を蚊帳の外に押しやってしまっているところが、子供目線では良いバランスに思えるかもしれないな。

音楽担当ジョン・デブニー。昔からこういうファミリー向けのコメディっぽい作品では良い仕事をしている印象。しかし、超多忙なはずのに、こんなものまでやってるってのは大変だよなぁ。

2011/08/03

バウンティ・ハンター(2010)

The Bounty Hunter (☆☆★)@WOWOW録画

昨年見損なっていた1本が放送されていたので録画して鑑賞。「300」のジェラルド・バトラー主演で「賞金稼ぎ」ってんだから、どんなハードなアクション映画かと思うかもしれないが、これは彼とジェニファー・アニストンを組み合わせた、スクリューボール・コメディだ。

映画にも時折登場するバウンティ・ハンターは、公判に出廷しなかった被告人を追跡して捕まえ、その被告人が逃げてしまえば没収されることになる「保釈金」を貸し付けていた保釈金金融業者から報酬を得る職業だ。映画ファンには、ロバート・デニーロ主演の『ミッドナイト・ラン』でお馴染みだよね。

この映画では、ジェラルド・バトラー演ずるバウンティハンターが、とある事情で逮捕されていたのに公判を欠席し、お尋ね者扱いになってしまったジェニファー・アニストン演ずる新聞記者を捕らえる仕事を嬉々として引き受けるのだが、この二人、実は元夫婦。ジェラルド・バトラーとジェニファー・アニストンの組み合わせも悪くないし、うん、これは面白い設定だ、と思うよね。

ここに、ジェニファー・アニストンが追っていた事件の犯人やら、ギャンブル好きのジェラルド・バトラーに貸しのある金貸し、ジェニファー・アニストンに一方的に思い入れを持つ同僚などが絡んできてややこしくなり、その一方で、本当は好きなのに憎み合っていた2人が次第に寄りを戻していく、という、そういう話である。うん、これは面白くなりそうだ、と思うじゃない。

しかし、映画は快調なスタートをきったあと、中盤以降なぜかグダグダに失速していき、せっかく面白くなりそうなネタが、なんかわりと平凡なところに着地してしまう。謎解きやサスペンスを絡めて物語の推進力にしようとするのはよいのだが、話がそこに踏み込めば踏み込むほど、犯罪者としても、コメディとしても面白くなくなっていくのである。

ジェニファー・アニストン、完璧なスタイルで見た目は美しいが、やっぱり演技はあんまりうまくないよね。テレビで人気が出たあと、映画で代表作と呼べるものを持っていないのは、やっぱりそういうところじゃないかな、などと思った。本作はロマンティック・コメディ系統で重宝されているアンディ・テナントが監督。過去にはジョディ・フォスター、ドリュー・バリモア、ケイト・ハドソン、リース・ウィザースプーンらの出演作を手がけているんだけど、うーん、どれも平凡なんだよね、やっぱり。

2011/07/28

9 ~9番目の奇妙な人形(2009)

9 (☆☆☆)@WOWOW録画

劇場で見損なっていたティム・バートン製作、シェーン・アッカー監督によるCGアニメーション『9 ~9番目の奇妙な人形』をWOWOWの録画で観た。普段は字幕版を好んでみるのだが、今回はたまたま放送があるのに気がついて録画したため、吹替版での鑑賞。

お話しは、戦争で人類が滅びた後の地球で目覚めた麻袋で作ったようなデザインのロボット人形「9」が主人公。彼が自分と同じように、背中に番号がふられた仲間たちと出会い、さらわれた仲間を助けようと冒険を繰り広げる中で自分たちの存在の意味を知る。というもの。少しダークな感触の、寓話仕立てのファンタジーだ。

もともと監督が作った短篇があり、それを気に入ったバートンが製作を買ってでて長編化された作品なのだそうだ。独裁者が起こした戦争、テクノロジーの暴走、人間と機械の最終戦争、人類滅亡後の世界といった背景設定や世界観は、手垢がついたものである。また、生き残った人々(というか人形たち)のコミュニティにおける人間(というか人形)関係のドラマも、まあ、既視感があるわな。人類を滅亡へと追いやった機械の化け物のデザインなども、どこかでみたイメージの借用である。

が、それでもこの作品を面白く観た。一つ一つの要素は確かにとりたてて新しくはないが、ひとつの作品にまとまると化学変化を起こし、何がしかのオリジナリティが立ち上がってくるように思うのだ。だいたい、メインストリームのファミリー向け商業アニメーション作品としてはかなり異色のテイストである。そして、そこにこの作品の魅力と価値があると思うんだよね。

麻袋で作ったような人形たちのデザインが面白い。製作を手がけているティム・バートンが好きそうだな、と思う。麻袋っぽいといえば『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』に出てきたブギーに似ているし、ツギハギっぽく糸で縫い止めたりするのが、サリーだったり、キャット・ウーマンの衣装だったりを彷彿とさせる。単純なようでいて、9体それぞれの個性をデザインに反映させていて、なかなか楽しいしよく出来ている。

最後あたりの展開は、ちょっと意味不明。「生きている」というよりは、取り込まれたまま行き場を失った魂を解放するということだとは思うんだけど、日本語吹き替えだったので、もともとどんな台詞になっていたがわからないところにフラストレーションを感じる。やっぱり、オリジナル言語で聞きたい。

2011/07/22

ダブル・ミッション (2010)

The Spy Next Door (☆☆)@WOWOW録画

ジャッキ-・チェン主演のライオンズゲート作品『ダブル・ミッション』を観た。原題は"The Spy Next Door" a girl next doorならどこにでもいる女の子、だけれど、spy なんてそうそう近所にいてたまるかよ、的な洒落ですな。

で、実際、本作のジャッキー・チェンは、筆記具の輸入販売業をしている男という触れ込みで郊外の町にひとりで暮らしており、お隣りのシングルマザーと良い仲になっている、というところから話が始まる。本業はスパイなのだが、引退して結婚しようとしているのである。シングルマザーの子供たちはジャッキーのことをダサいおっさんだと思っていて、しかも、母親が結婚するとなると、本当の父親への思いもあって、抵抗を感じている。母親が留守のあいだ、子どもの世話を引き受けたジャッキー。そこに敵スパイの魔の手が迫る。

・・・とまあ、ファミリー向けのコメディ映画なのである。ジャッキー、相変わらず身近な小道具を使った器用なアクションを見せてくれるし、フィジカルな能力の高さはスゴイんだけど、アクション濃度はかなり低い。しょうがない、だって監督はブライアン・レヴァントだもん。シュワルツェネッガーの『ジングル・オール・ザ・ウェイ』とか撮ってたひとだよ?

しかし、この映画、のっけのところがスゴイんだ。オープニングタイトルで「主人公のスパイとしての大活躍」のダイジェストをみせてくれるのね。だけど、これがなんと、本物のジャッキー映画から抜いてきたアクションシーン総集編なのだ。なんか、米国進出後の映画の比率が多いのはご愛嬌だが、香港時代の作品、少なくともプロジェクト・イーグルは混ざってる。本編に足りないアクションを、せめてここだけでも堪能ください、ということかね。

2011/06/28

コップ・アウト 刑事(デカ)した奴ら (2010)

Cop Out(☆☆)@WOWOW録画

ブルース・ウィリスはTVドラマ『こちらブルームーン探偵社』の頃からのファンなので、出演作品の全部とは言わないが、ほとんどを見てきている。だが、昨年秋に「シネパトス送り」となったこれ、いろいろあって見損なっていたんだよね。

麻薬密売人を追っていてヘマをうち、1か月間の無給停職をさせられているブルース・ウィリスは、離婚した妻とのあいだに娘がいて、父親としてのメンツをかけてその結婚費用を捻出擦る必要に迫られている。自分の父親から譲り受けた稀少なベースボール・カードを手放す決心をするが、取引中にケチな押し込み強盗にあってカードを盗まれてしまう。同じく停職中のパートナーと共に強盗犯を捕らえてみれば、カードを売りさばいた相手は件の麻薬密売人だと判明する。

ケヴィン・スミスが、メジャー・スタジオで、他人の脚本で撮り、商業的には自身最高(といっても、たかだか4500万ドルくらい)の結果を出したアクション・コメディ。出演は他にトレイシー・モーガン、ショーンウィリアム・スコット、ケヴィン・ポラック、ジェイソン・リーといったところ。音楽がああおなつかしやハロルド・フォルターメイヤーですよ。そうそう、あの『ビバリーヒルズ・コップ』のね。

製作段階の「A Couple of Dicks」から改題。そりゃそうだ。2人の刑事(二本のチンコ)じゃ、まともにTV宣伝も打てやしないだろ!

ケヴィン・スミスは興味深い映画作家ではあるけれども、必ずしも器用な映画職人というわけではない、というところだろうか。映画化前には期待される脚本リストに名を連ねていたこともある本作だが、退屈しない程度の平凡な出来栄えである。脱線・回り道が持ち味な脚本だからこそ、そこはピリっと引き締めて欲しかった。が、けっかはグダグダ。まあ、ケヴィン・スミスだからな。それも想定の範囲内だ。

ブルーノが協力的ではなかったと、出来の悪さを主演俳優の態度の悪さに転嫁したような監督の怒りのコメントが流れていた。しかし、どうだろう。出来上がった映画を見る限り、ブルース・ウィリスはいつものブルース・ウィリスだ。まあ、ヤツのことだから、金のために出演し、適当に流したのかもしれない。が、監督が「プロフェッショナルだ」と褒めてた共演のトレーシー・モーガンがちっとも面白くないことのほうがよほど問題じゃああるまいか。やはり(TV出身とはいえ)百戦錬磨のスーパースターと、TV番組で人気でも映画の実績がほとんどないコメディアンでは、身にまとったオーラが違いすぎるよ。

不仲の原因は、ブルーノがやたらケヴィン・スミスの撮り方に口を出したことらしいね。この手のアクション・コメディにゃ、たしかにブルーノのほうが経験も豊富だし、一家言ありそうなもんだ。

セリフなどを引用する映画ネタが、最初から最後まで盛り沢山。ちょっとやり過ぎで、面白さも半分といった感じだけどね。

2011/03/18

正義の行方 C.I.E. 特別捜査官(2009)

Crossing Over (☆☆☆)@WOWOW 録画

ハリソン・フォード出演作としては扱いが小さかったために劇場で見逃していた。考えて見れば、『エアフォース・ワン』あたりを最後に興行的な神通力を失った感のあるハリソン・フォード。「クリスタルスカル」後になる本作ではアンサンブル・キャストの1人、『小さな命が呼ぶとき』ではブレンダン・フレイザーを、公開中の『恋とニュースの作り方』ではレイチェル・マクアダムスを前面に立てての助演と、新しいポジショニングを獲得すべく新機軸を打ち出しつつあるようだ。

で、本作である。米国ならではのテーマである移民を切り口に、中東系、韓国系、メキシコ系、オーストラリア系、ユダヤ系の複数のエピソードが互いに交差していく作りになっている。最近だと、ポール・ハギスの『クラッシュ』を想起させる構成だな。

ハリソン・フォードの役回りは不法移民を取り締まる捜査官で、そういう立場でありながら人としての温情を持っていることであるメキシコ系の女性とその家族に関わりを持っていくことになる。他に、レイ・リオッタが立場を利用してオーストラリアからきた新人女優を手篭めにする話とか、ヘブライ語も分からんのにいんちきユダヤ教徒の話とか、学校の作文で9/11の犯人側に同情的だとされて自爆テロの可能性を疑われる少女の話とか、悪いヤツと付き合っているうちに人生を棒に振りそうになる韓国移民の少年の話とかが綴られていく。クライマックスは、新しく市民権を得た人々を一同に集めてのセレモニーだ。多様なエピソードで移民国家米国の今を描き出す。

真摯な内容でそこそこ面白い。エピソードの結末も深刻一本槍ではないところがいいし、結果としてある種の不条理も感じさせるあたりもいい。ハリソン・フォードは、無口な頑固キャラが板についてきた。レイ・リオッタが相変わらずセコい悪役で、ちょっと可哀想になってくる。『ラスベガスをぶっつぶせ』のジム・スタージェスがなかなか笑わせる。ハリソンの相棒役で登場するクリフ・カーティスに見せ場がある。

脚本・監督は、ウェイン・クレイマー。そうか、そのあたりも脚本家で監督も手がけるハギスの作品を想起させる理由なのかも知れない。製作はワインスタイン・カンパニー。ファイナルカット権を保持していたのに、「短くしないと劇場リリースを見送るぞ」と脅されて20分くらいカットしたらしいが、まあ、2時間でちょうどいいんじゃないのかね。「シザーハンズ」と呼ばれるワインスタインだが、彼らなりの見識というのも一理あるような気もする。

2010/12/15

エディ・マーフィの劇的一週間 (2009)

Imagine That (☆☆☆)@WOWOW 録画

WOWOWで放送された国内劇場未公開映画を録画で鑑賞。

1982年の『48時間』で鮮烈な映画デビューをしてからすでに30年近いエディ・マーフィだが、そのキャリアには幾度もの浮き沈みがあるわけだが、ここ数年の低調ぶりはちょっと目に余るものがある。『ドリーム・ガールズ』でアカデミー賞ノミネートされながら受賞できないとわかると憮然とした表情で会場をあとにして業界内で不評を買ったのがケチの付き始めではないか。この間の離婚や子供の認知をめぐるスキャンダルで、鉱脈を見つけつつあった「良き父親」キャラクターが傷ついたのも痛いところだ。

で、本作。これも「父親キャラクター」によるファミリー・コメディ路線の一本である。まあ、仕事一筋で父親失格の男があることをきっかけに娘との距離を縮め、父親としての責任に目覚めるといったよくある話なのだが、久々にちょっと面白い。

エディが演じるのは機関投資家や富裕層を相手にした投資顧問会社のやり手マネージャーだ。創設者が会社を売って引退しようとしているらしいときき後釜を狙うべく奮闘するが、先住民気取りのプレゼンテーションで顧客の心をつかむライバルに遅れをとりがちで焦っている。そんな大事なタイミングで、別れた妻との約束で娘の面倒をみなくてはならないようになる。両親離婚のショックからか、安心毛布を手放さず想像上の友達(imaginary friends)と会話をする娘に手を焼くエディは、仕事に使うドキュメントをめちゃめちゃにされて激怒。ところが、落書きやイタズラに見えたそれは、娘が想像上の友達から聞きだした投資アドバイスで、その的中度合に上司も顧客も度肝を抜かれることになる。

そんなわけでエディは、最初は半信半疑で娘と一緒に毛布を被り、娘が遊ぶ想像上の世界でご神託を聞こうとするようになる。このあたりから、先入観なしに映画を見ていると、この話がどのように展開していくのか、ちょっと想像ができなくなってくる。果たして、毛布をかぶって回転するとそこにはファンタジー世界が広がっているのか?・・・いや、実のところ、映画のミソは、主人公であるエディにも、観客にも、娘が言う想像上の世界や友達が見えるわけではないことだったりする。

自身の出世のために娘を利用していたエディが、どこで父親としての責任を自覚したのか、どんな心境の変化があったのか、肝心なところが丁寧に描かれているとはいえないが、毛布一枚に子供じみた大騒ぎになった挙句、ハっと我に返る瞬間があったのだろうと想像する。

共演する「先住民気取り」のトーマス・ヘイデン・チャーチの怪演、伝説の投資家マーティン・シーンの貫禄がいいね。

2010/11/17

ムーラン(1998)

Mulan ☆☆☆★(@ WOWOW録画)

ディズニーが古代中国の伝説を題材に長編アニメーションを作った。中国市場への目配せなどと評されたが、そういう経営判断はあったにしろ、なかなかの新機軸といえよう。

だいたい、男装して戦場にいき、救国のヒロインとなる女の子が主人公である。『美女と野獣』以来、能動的、積極的で賢いヒロインが描かれるようになってきたが、これはその極み。定番のミュージカル要素(挿入歌はマシューワイルダー作)もあるが、ダイナミックなアクション・アドベンチャーの側面もある。なんと、スコアを担当したのは巨匠ジェリー・ゴールドスミスだ。この音楽が「いつものディズニー映画」とは決定的に違う雰囲気をもたらしている。CG技術を導入して描かれた戦闘シーンも、この音楽で迫力倍増である。

中国の話しということで、キャラクターのデザインや美術、背景、アニメーションのタッチにも工夫の跡があり、それっぽい雰囲気が出ている。これは改めて見てみると、かなり力作だと思う。かなりオリジナリティも高い。

子供向けのマスコット・キャラクターとして、幸運のコオロギと、守り神のドラゴンが出てくる。このあたりは典型的なディズニーっぽさが出ているところだが、オリジナル言語版ではエディー・マーフィが声を当てたドラゴンが大人気だった。今回は吹替版で見たが、そこは器用な山寺宏一、雰囲気をうまく掴んでいると思った。

これ、日本ではヒットしなかったね。もったいない。

まあ、米国のスタジオが中国を題材にアニメを作る事にとやかくいう筋もあるんだろうが、日本最初のカラー長編アニメ映画は「白蛇伝」(←中国の説話)だしな。要は、面白ければいいのだ。

2010/11/16

ポカホンタス(1995)

Pocahontas ☆☆★(@WOWOW録画)。

前年に『ライオンキング』を大ヒットさせたばかりの、ジェフリー・カッツェンバーグ指揮下のディズニーが手がけた野心作と呼べる1本である。しかし、英国人のヴァージニア入植にあたって、白人ジョン・スミスと現地人の酋長の娘が恋に落ちたという史実によらない「伝説」を、征服者白人側目線で都合の良い口当たりの良いお話しとして批判的検証精神なしに描いたことから、作品を巡る様々な論争がヒートアップしてしまうという不幸な結果を招いた。

作品として野心的であるというのには、ひとつには自分たちの国、アメリカを舞台とした話に正面から取り組んだということがあるだろう。そして、叙事詩的な作品・物語の性格もある。子供が飽きないようにアライグマやハチドリといったマスコット・キャラクターは登場させているものの、基本は魔法やお伽話が介在しないストレートなドラマだ。

こうしたことを受けて、美術や音楽なども、それなりに気合が入っていて見応えがある。『リトル・マーメイド』にはじまる作品群のなかで、それまでの流れとは少し異なる新機軸が打ち出されたのがこの作品で、それは翌年の『ノートルダムの鐘』、98年の『ムーラン』などに繋がっていく。

一応、現地人やその文化は好意的に描かれ、白人入植者側が侵略者として悪く描かれてはいる(歌詞の中で現地人を差して入植者らが"Savages" 野蛮人と歌うことへの反発など、言い掛かりに等しい。)が、白人側の「悪」を、責任者である総督ひとりに集約・単純化することで矮小化していると感じられる。結局「白人に対して理解のある現地人が良きインディアン」だということになってしまっており、白人にとって都合の良い描かれ方という謗りは免れまい。

このあと、現地人たちは舞台となったような豊かな土地を追われ、土地や権利を騙すようにして取り上げられ、居留地に押し込められていくことを我々は知識として知っている。植民時代の「相互理解」の物語は、だからその残酷な結末まで描かない限りは、侵略者にとって都合の良い物語にしかならない。そこが本作の、本質的な弱みである。

2010/11/07

ゴーストたちの恋愛指南!(2009)

Ghosts of Girlfriends Past (☆☆☆★)@WOWOW 録画

さて、WOWOWを契約してみるようになってしばらくたつが、楽しみのひとつは「未公開もの」だ。どうしようもないのもあるが、結構な割合でこちらの好みの作品が放送されている。

で、これもそんな一本だ。邦題ではコメディだろう、ということの他には何のことやらさっぱり分からんのだが、原題を聞けばピンとくるんじゃないか。

Ghosts of Girlfriends Past...ね?

そう、最近ではロバート・ゼメキス版も公開されたディケンズの『クリスマス・キャロル』の翻案なんだな。

ご存知のように、「クリスマス・キャロル」では、強欲なスクルージのところに3人の"Ghosts of Christmas" (Ghost of Christmas Past/Present/Yet to Come)が順番に彼の元を訪れ、過去・現在・未来をめぐり主人公に改心を迫る。本作では、女たらしのファッション・フォトグラファーのところに、過去・現在・未来の女の霊(生霊?、妄想?)が現れて、生き方を変えないと寂しい死を迎えることになると揺さぶりをかけられる。

主人公はマシュー・マコノヒー。この人は、無責任な軽さだけでなく、自信過剰で嫌な奴が実は真摯でいい奴という2面性や、揺れる胸のうちみたいなものを無理なく見せられる。3枚目もいけるが、2枚目もいける。『トロピック・サンダー』ではオーウェン・ウィルソンの代替みたいな役を演じたが、オーウェン・ウィルソンには本作の主人公は務まらないだろう。案外微妙な違いが大きな違いになるものだ。

で、この男を無責任な女好きに育てた師匠(叔父)が、なんと、マイケル・ダグラスだ。このキャスティングを思いついた奴は天才じゃなかろうか。映画ファン的に一番の見所は、ロバート・エヴァンスを模したと噂のダグラスの演技であることは間違いない。本作のヒロインで、主人公がかつて愛していた女性がジェニファー・ガーナー。まあ、ちょっとゴツいんだが、役柄としては合っている。そのほか、ロバート・フォースター、アン・アーチャー、ブレッキン・メイヤー、エマ・ストーン、、、映画好きにはわりと豪華な面々が出演。アン・アーチャーは久しぶりだなぁ。きれいだけど、さすがに歳をとった。

監督はマーク・ウォーターズ。この人、リンジー・ローハン主演の良作『フォーチュン・クッキー』『ミーン・ガールズ』のひとと知った。わりと信頼できる作り手じゃなかろうか。

主となるストーリーは、主人公がめちゃめちゃにした弟の結婚式の収拾をつける話と、かつて思いを寄せていた幼馴染の女性との関係修復という2本の柱に巧みにアレンジされ、並以上のロマンティック・コメディになっている。が、展開は、もう、そのまんま「クリスマス・キャロル」である。翻案ものの佳作としてはビル・マーレイの『3人のゴースト』と同等以上。この手のジャンルが好きな人にはお勧めしておきたい。